緑オリーブ法律事務所ブログ

緑オリーブ法律事務所ブログ

消滅時効と除斥期間
2023-11-10 · by blogid · in 民事事件,

 ちょっと前の報道ですが、旧優生保護法の下で不妊手術を強いられたとして、国に損害賠償を求めた訴訟(強制不妊訴訟・旧優性保護法被害訴訟)で、仙台高等裁判所が、旧優生保護法を違憲と判断し、国に賠償を命じる判決を言い渡しました。(河北新報ONLINE・10月25日朝日新聞DIGITAL・10月25日NHK 宮城 NEWS WEB・10月25日


1 仙台高裁判決のポイント
 全国で争われている同種訴訟で、原告被害者らの請求が認められるか否かの分かれ目になっているのが、原告被害者らが手術を受けてから数十年が経過していること―不法行為の損害賠償請求権が不法行為時から20年を経過したときは消滅すると規定されていること(改正前民法724条後段)をどうとらえるか、です。


 同規定について、最高裁が1989年、不法行為から20年の経過で理由の有無にかかわらず損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」であると判断して以来、この除斥期間説が通説・判例として定着していました。このため、同種訴訟では、原告被害者らの被害の重大性、旧優性保護法の違憲性は認めつつ、原告被害者らの損害賠償請求権はすでに消滅しているとの判決も相次ぎました。
 原告被害者らの請求を認めた判決も、「除斥期間」が経過してることは前提に、例外的にその適用を制限してきたものです(ゆえに、原告被害者らが「一時金支給法制定から5年以内に提訴」した場合(東京高裁判決)など、救済対象が限定されることもありました。)。


 今回の仙台高裁判決は、国が長期間、優生思想の普及や優生手術の拡大を目的とした政策を継続したことで障害者に対する差別や偏見を正当化・固定化したため、原告被害者らが損害賠償請求権を行使することは著しく困難だったから、20年の経過で権利がなくなるとすることは、法の正義・公平の観点から不当であるとして、「除斥期間」でなく、(加害者側に権利の濫用があった場合に請求権が失われない)「消滅時効」にあたると判断しました。
 原告被害者らが勝訴した他の高裁判決が、除斥期間という〝時の壁〟を期間限定で取り払い、被害者を救済してきたのに対し、仙台高裁判決は、〝壁〟そのものを取り壊したといえます(前掲の河北新報のコメント)。


2 民法(債権法)改正と「除斥期間」
 2017年に成立、公布された改正民法では、時効についても改正されました。
 詳細は、以前の当ブログ記事に委ねます(2017年9月8日「民法(債権法)改正の話② ~時効について」)。


 今回の仙台高裁判決に関連する範囲のみ、以下、簡単に言及します。


 改正以前、不法行為の損害賠償請求権は、「損害及び加害者を知った時から3年」の消滅時効(改正前民法724条前段)と、「不法行為時から20年」の除斥期間(同条後段)による消滅が規定されていました。
 そして、改正前民法では、消滅時効の「中断」および「停止」制度があり、消滅時効には適用されるが、除斥期間には適用されない、とされてきました。


 まず、改正民法は、改正前民法における時効の「中断」を、時効の完成を猶予する「完成猶予」と新たに時効を進行させる「更新」として再構成するとともに、「停止」については、「完成猶予」としました(改正民法147条~161条)。


 また、改正民法は、改正前民法724条後段の長期の権利消滅期間について、除斥期間であるとされていて(1989年最高裁判決)、中断・停止が認められず、援用なくして権利は当然に消滅するとされていたものを、消滅時効期間と構成しました(改正民法724条2号)。これにより、更新・完成猶予が適用されることになり、権利濫用・信義則違反による対抗も容易になりました。


 今回の仙台高裁判決は、この民法改正の流れに沿ったものだともいえそうです。(浜島将周)



― 緑オリーブ法律事務所は名古屋市緑区・天白区・豊明市・東郷町を中心にみなさまの身近なトラブル解決をサポートする弁護士の事務所です ―

  • <
  • 1
  • >