緑オリーブ法律事務所ブログ

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拳銃と実弾を所持したとして銃刀法違反の罪で懲役2年が確定し服役したロシア人男性について、札幌地裁が、北海道警の違法な「おとり捜査」で得られた証拠を排除し、無罪を言い渡すべきだとして、再審の開始を決定した、との報道がありました。(北海道新聞WEB版・3月3日朝日新聞DIGITAL・3月3日

おとり捜査」とは、捜査官(またはその協力者)が〝おとり〟となって人に犯罪をそそのかし、犯行に出たところで逮捕する、という捜査方法です。
これには、もともと犯罪とは無縁で犯すつもりのなかった人に犯意を誘発した場合と、犯罪の機会を提供したにすぎない場合とがあり得るのですが、学説上は、前者の犯意誘発型の場合には、公正な捜査といえないので起訴を無効として公訴棄却とすべきだとか、違法に収集した証拠なので排除して無罪ないし免訴とすべきだとかいった見解が有力です。

報道によると、今回の事件は、男性が船で小樽港に入り、初来日した際、北海道警の捜査協力者であるパキスタン人から、拳銃と車の交換を持ちかけられて、再来航時に、父親の遺品の拳銃を持参し、現行犯逮捕された、というものです。
捜査官が、外国人に拳銃を持ち込ませるよう協力者に指示し、その協力者が、「拳銃を1万ドルの値札が付いた中古車との交換する」と銃器犯罪に縁のない男性を誘惑したことが事件につながった、というのですから、まさに犯意誘発型おとり捜査です。
札幌地裁は、「具体的嫌疑がない男性のような者にまで持ち込みを働きかけるのは道理にもとる」「犯罪を抑止すべき国家が銃器犯罪をつくり出した」「本件おとり捜査は捜査の名に値しない」などと厳しく指摘しています。
(本件ではこのほか、捜査官らが口裏を合わせ、裁判で偽証までして、おとり捜査を隠蔽していた、という問題もあったようです。)

おとり捜査の違法を理由に証拠の排除を認めた初めての判例だと思われ、画期的な決定だといえます。
捜査の名を借りた警察によるの違法行為に猛省を促す決定だといえそうです。




…と、書いていたら、

覚せい剤取締法違反(使用、所持)の罪に問われていた女性について、高松地裁が、違法に収集された証拠に基づく起訴だったとして無罪判決を言い渡した、との報道にも触れました。(毎日新聞WEB版・3月4日産経WEST・3月4日

報道によると、今回の事件は、女性が高松市内の交通事故現場で警察官に職務質問され、覚醒剤所持などを疑われて任意同行や尿の任意提出を求められたが、これを拒否、女性は知人の乗るタクシーに乗り込んだが、警察官が車外に引きずり出し、強制採尿などの令状が出るまで留め置いた、というものです。
高松地裁は、タクシーに飛び乗った女性を警察官が引きずり出した行為について、「運転手が発車するとは考えられず、逃亡の蓋然性や緊急性が高いとはいえない」とし、その後、強制採尿などの令状が出るまで病院に留め置いた状態を「違法」と認定し、それによって収集した尿に「証拠能力を認めることはできない」と判断しました。

本件では、警察官が女性に疑いをもった時点では、なんの令状も出ておらず(当然まだ、現行犯逮捕ができるような状態でもなく)、任意同行を求められるにとどまりました。
捜査は、被疑者等の身体の自由や財産権その他私生活上の利益に直接重大な脅威を及ぼすものですから、捜査に必要なことなら何をしても許される、なんてことはもちろんありません。逮捕令状が出てもいないのに、車外に引きずり出したり、同意なく数時間も一定の場所に留め置いたりなどできるわけないのです。
(ただし、任意の段階だからといって、一切の実力行使が許されないのかというと、そうでもなく、例えば、酒気帯び運転の疑いのある者が自動車に乗り込んで運転発進しようとした際、警察官が窓から手を入れて、エンジン・キーを回してスイッチを切り、これを引き抜いた行為を、適法だとした最高裁判例があります。)

これも、行き過ぎた捜査に対する厳しい判断で、警察に猛省を促す判決だといえそうです。(浜島将周)

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