緑オリーブ法律事務所ブログ

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 今回は、遺留分制度に関する見直しについて、ご説明いたします。


1. まず、そもそも「遺留分」とは何か?から


 例えば、「財産はすべて長男○○に相続させる」とか、「財産はすべて××基金に寄付する」とかいった内容の遺言書を遺して亡くなった方がいたとします。これらの場合、その遺言書どおりであれば、(長男以外の)相続人はまったく財産を相続できないことになってしまいます。しかし、相続人には、相続に対する期待権があるでしょうし、長男との平等も考慮しなければなりません。そこで、相続人には、被相続人が遺した財産の一定割合を取得できる権利が認められており、この権利の割合を「遺留分」といいます。
 遺留分の割合は、法定相続分の2分の1(相続人が直系尊属(父母等)のみの場合には法定相続分の3分の1)です。
 また、配偶者・子・直系尊属には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。


 具体的には、相続人が妻と子2人(長男、二男)のケースで、「妻に自宅(3,000万円)と現金(500万円)、長男に株式(6,000万円)、次男に預金(500万円)を相続させる」旨の遺言を夫が遺した場合を考えます。
 この場合、財産の総額は1億円ですので、遺留分はその2分の1である5,000万円となります。各人の遺留分は、妻がその2分の1の2,500万円、長男と二男がそれぞれ4分の1の1,250万円となります。したがって、二男が遺留分を侵害されていることになります。次男は、「遺留分減殺請求権」を行使して、侵害された金額分を請求することが可能です。


2. 今回の改正のポイントについて


1) 改正のポイント①~遺留分減殺請求権行使の効力について


 これまでは、遺留分減殺請求権の行使によって、当然に物権的効果が生ずるとされていました。ちょっと難しいですが、結論的にいうと、遺留分減殺請求権を行使すると、生前贈与や遺贈の対象となる財産が共有関係になったということです。
 先ほどの例でいうと、自宅について、妻と二男の共有状態になります。妻と二男の仲に問題がなければよいのでしょうが、そうでなければ一緒に住むにも、他人に貸したり売ったりするにも、一悶着ありそうです。
 また、株式について、長男と二男の共有状態になります。長男が夫の経営する会社の後継者で、取得した株式が事業承継のためのものだったとすると、会社の後継者ではない二男との共有状態はトラブルの素になりかねません。
 そこで、改正法は、この規律を見直し、遺留分に関する権利の行使によって、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることにしました。名称も「遺留分侵害額請求権」となります。


 なお、遺留分侵害額請求を受けた相続人、例えば相続財産が株式だけだった長男についていえば、株式を換価して金銭の支払いを直ちにできない場合もあります。そこで、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払いについて、期限の許与を求めることができるようになりました。


2) 改正のポイント②~生前贈与があった場合の遺留分侵害額請求


 これまでは、相続人以外の第三者に対する生前贈与については、相続開始1年前からの財産に限定して遺留分算定の基礎となる財産に含めていましたが、相続人に対する生前贈与については、期間の限定がなく、過去に行われた生前贈与がすべて遺留分減殺請求の対象になっていました。
 しかし、これでは、誰も覚えていないくらいの昔の生前贈与も遺留分減殺請求の対象になってしまい、法的安定性を害します。
 そこで、改正法は、相続人以外の第三者に対する生前贈与については、従前どおり相続開始1年前からの生前贈与に限定するものの、相続人に対する生前贈与については、相続開始10年前からの生前贈与に限定するとともに、さらに「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限定することにしました。ただし、他の相続人の遺留分を侵害する意図で行われた生前贈与は、仮に相続開始前10年より前の生前贈与であっても、遺留分侵害額請求の対象になる可能性があります。

 法務省作成の資料「遺留分制度の見直し」も併せてご参照ください。(浜島将周)

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