検察当局が、顧客情報を入手できる企業など計約290団体について、情報の種類や保有先、取得方法を記したリストを作り、内部で共有していることが分かった、との報道がありました。(共同通信WEB・1月3日、中国新聞アルファ・1月3日)
それら情報の大半は、裁判所など外部のチェックが入らない「捜査関係事項照会」で取得できると明記されているようです。
弁護士として刑事弁護に携わると、検察・警察が所持する証拠書類の中に、おそらくそういう類の書類を目にすることはありましたが、はっきりとリストが表に出たことは重要です。
令状に基づかずにプライバシー情報が捜査機関にまるまる流れているという事実は、大変な問題です。
記事でも指摘されているとおり、入手可能とされた情報には、ICカードなどの名義人や使用履歴に加え、カード作成時に提出された運転免許証などの写し、顔写真も含まれる上、リストにあるドラッグストアやレンタルビデオ店、書店の購入情報を加えれば、対象者の健康状態や思想信条、趣味嗜好を把握することも可能となります。
当該企業を利用した個人は、もちろんそのような捜査機関への情報提供など想定していないはずです。企業側には、安易な情報提供をすることなきよう、情報提供基準についての再考を求めます。
また、捜査機関が取得した情報を適切に管理・保管・分析・利用・廃棄するよう、法的整備も必要です。(浜島将周)
[以下、記事を貼り付けます。]
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「顧客情報入手方法リスト化 検察、290団体分 私生活「丸裸」の恐れ 外部チェック大半なし」
検察当局が、顧客情報を入手できる企業など計約290団体について、情報の種類や保有先、取得方法を記したリストを作り、内部で共有していることが3日、分かった。共同通信がリストを入手した。情報の大半は裁判所など外部のチェックが入らない「捜査関係事項照会」で取得できると明記。提供された複数の情報を組み合わせれば、私生活を網羅的かつ容易に把握できるため、プライバシーが「丸裸」にされる恐れがある。
捜査当局が顧客本人の許可を得ず、包括的に情報を取得、活用するのは、令状主義を定めた憲法に反するとの指摘もあり、手続きの不透明さが問題視されそうだ。
入手したリスト「捜査上有効なデータ等へのアクセス方法等一覧表」によると、顧客情報は公共交通機関や商品購入の履歴、位置情報といった個人の生活に関わるもので計約360種類。
検察関係者によると、リストは最高検が捜査への活用を目的に、警察の協力を得て作成し、検察内部のサーバーに保管、随時更新している。
最高検は情報公開請求に対し、リストの存在を認めた上で「企業側の利益を害し、捜査手法が明らかになる恐れがある」として開示を拒否した。
捜査関係事項照会は、捜査当局が独自に企業側に出す要請にすぎず、捜査に必要かどうか外部のチェックは働かない。取得後の使用方法なども不明で漏えいリスクもある。当局への提供は顧客本人に通知されない。
対象に挙げられた企業は、主要な航空、鉄道、バスなど交通各社やクレジットカード会社、消費者金融、コンビニ、スーパー、家電量販店などさまざま。買い物の際に付与され、加盟店で使用できるポイントカードの発行会社や、携帯電話会社も含まれている。
入手可能とされた情報は、ICカードなどの名義人や使用履歴に加え、カード作成時に提出された運転免許証などの写し、顔写真も含まれる。リストにあるドラッグストアやレンタルビデオ店、書店の購入情報を加えれば、対象者の健康状態や思想信条、趣味嗜好(しこう)を把握することも可能だ。
リストの約360種類のうち、捜索差し押さえ許可状などの令状が必要と明示しているのは22種類だけ。残りの大半は捜査関係事項照会などで取得できるとしている。
企業側の多くは、利用規約や個人情報保護指針に「法令に基づく外部提供の可能性がある」と記載しており、任意提供の根拠としている。
※令状主義と捜査事項照会
捜査当局が対象の人物や物を捜し、取得する「捜索」「差し押さえ」と言った強制的な捜査をする場合、裁判所が出す令状が必要となる。権力の乱用を防ぎ、対象者のプライバシーや財産権を守るため、裁判所がチェックする仕組みで、憲法35条に規定され、令状主義と言われる。一方、刑事訴訟法は、捜査当局が官公庁や企業などに、捜査上必要な事項の報告を求めることができると規定。捜査関係事項照会と呼ばれ、照会に応じなかった際の罰則はない。捜査当局は、任意に情報を得られない場合、令状を改めて取得し、執行する必要がある。