スマートフォン片手に自転車を「ながら運転」した結果、歩行者にぶつかって死亡させた大学生に、有罪判決が下った、との報道がありました。(神奈川新聞WEBカナコロ・8月27日、TBS NEWS・8月27日)
どうやら、被告人は、左手にスマートフォン、右手に飲み物を持ち、耳にはイヤホンを付けて音楽を再生した状態だったというのですから、単なるスマホの「ながら運転」では済まない状態だったようです(被告人質問で、「ぶつかるまで気が付かなかった」と供述したといいます。)。しかも、自転車の走行が禁止されている歩行者専用道を走行中に事故を起こしたというのですから、今回、単なる「過失致死罪」でなく「重過失致死罪」で処断されたのも、むべなるかなです。
結論としては執行猶予付き判決だったようですが、近時の重罰化の流れの中では、いずれ同様の事案で実刑判決となることも十分に考えられます。
ところで、「重過失」とは、文字どおり「重大」な「過失」のことをいいます。(軽)「過失」がうっかりしてミスしたことだとすれば、「重過失」はわざと(故意)に限りなく近い程度の過失だとお考えいただければよいと思います。
一般に、損害保険は、火災保険にしても自動車保険にしても、過失によって生じた事故を補償するための制度ですから、事故の発生に過失があっても、保険金は支払われます(コンロをうっかり消し忘れて火事を起こせば、火災保険が支払われます。)。
他方、故意によって発生させた事故は免責され、保険金は支払われません。(自宅に自ら放火したら、当然のことながら火災保険は支払われません。)。
この点、損害保険では、「重過失」は故意に準じるものとして、免責の対象となるのが原則です。
では、自動車保険ではどうかというと、「重過失」と認められた場合であっても、対人賠償責任保険・対物賠償責任保険については、例外的に保険金が支払われます(人身傷害補償保険・搭乗者傷害保険・車両保険は原則どおり免責となります。)。
これは、交通事故における被害者救済の観点からの例外です。同じく自動車事故の被害者が、加害者側の不注意の程度という運転者側の事情で救済されたりされなかったりするのは、感覚的にも不公平でしょう。
今回の事件は自転車事故ですが、これも同様で、加害者の態様は「重過失」だったと判断されましたが、保険金は支払われることになります。今回の判決では、この点も考慮され、相応の被害弁償が見込まれるということも、執行猶予が付けられた理由とされています。
なお、ご参考までに、名古屋市のHP「自転車損害賠償保険等への加入が義務となります。(平成29年10月1日施行)」のリンクを貼り付けておきます。あわせてご覧ください。→こちら (浜島将周)