政府が、土地の所有権を放棄したいときに放棄できる制度の検討を始めた、との報道がありました。(朝日新聞DIGITAL・5月29日)
名古屋市内であればあまり見られないことでしょうが、過疎地域などでは土地があっても、活用もできなければ買い手がつかなくて売却もできないという状況もあるようです。そのような土地であっても、所有者は、固定資産税の支払いはしなければなりませんし、崖崩れなど起こして周囲に迷惑を掛けそうなら対応もしなければなりません。維持管理費がかかるだけの、やっかいものなわけです。
では、要らない土地について、所有権を放棄できるのでしょうか?
この点、「不動産所有者が所有権を放棄できるか否かについては、わが民法には規定がなく、はっきりしない」、「そもそも、わが民法では、不動産に限らず一般に、物について所有権放棄が可能かどうか、規定がない」状況です(田處博之教授『土地所有権は放棄できるか―ドイツ法を参考に』)。
ただ、学説としては、所有権は放棄できる、というのが一般的で、「所有権の放棄は、相手方のない意思表示によりその効力を生じ、動産は無主物となって先占の対象となり(民法239条1項)、不動産は国庫に帰属する(同条2項)」(河上正二教授『物権法講義』)などと説明されています。
もっとも、最近の裁判例では、「…不動産について所有権放棄が一般論として認められるとしても、Xによる本件所有権放棄は権利濫用等に当たり無効であり…」として、具体的な事情のもとで、土地の所有権放棄を否定したものがありました(広島高裁松江支部平成28年12月21日判決)。
土地の所有権の放棄を認めるにしても、放棄されればそれを誰か=多くは国や自治体が維持管理をしなければならず、そのコストも無視できません。
法務省では今後、放棄できる土地の要件や放棄の際の所有者の負担などの詳細を詰めていくとのことです。(浜島将周)