緑オリーブ法律事務所ブログ

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 民法制定以来、債権法部分については約120年間ほとんど改正がされていませんでしたから、その間に登場した新たな契約類型や決済手段等、また伝統的な契約類型でも定型化された大量取引等に、十分に対応できていませんでした。
 改正された民法(以下「改正法」といいます。)では、新たに定型約款の項目が設けられました(改正法548条の2以下)。



1 定型約款の定義


 「定型約款」は、以下のように定義づけられました。
① ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引であって、
② その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの(定型取引)において、
③ 契約の内容とすることを目的として、
④ その特定の者により準備された条項の総体 をいう。


 したがって、一般消費者と企業との契約における約款は、この定型約款に該当する場合がほとんどだろうと思われます。
 反対に、上記の要件を満たさない約款は、改正法上の定型約款には該当せず、改正法は適用されない(従来どおりの解釈による。)ことになります。
 


2 定型約款についてのみなし合意


 定型取引を行うことを合意した者が、定型約款を契約の内容とすることをも合意したときには、もちろん定型約款の個別条項に拘束されます。
 改正法では、そのような合意がなくても、定型約款を準備した者(定型約款準備者)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときには、定型約款を契約の内容とすることを合意したとみなし、定型約款の個別条項に拘束されることとしました。


 もっとも、定型約款がどのような内容であっても拘束力があるということではなく、
ⅰ 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項で、
ⅱ その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害するもの、
については合意をしなかったものとみなされ、拘束力は生じません。


 したがって、企業側からすれば、現在使用している契約書等が定型約款の組入れ要件を満たしているか、また、相手方の利益を一方的に害する内容だとしてみなし合意が否定されるおそれのある条項が含まれていないかについて、あらためて検討が必要でしょう。
 


3 定型約款の内容の表示


 定型取引を行う者または行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で、その定型約款の内容を示さなければなりません。
 これを拒んだ場合(一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合を除く。)には、みなし合意が認められなくなります。


 もっとも、定型約款準備者がすでに相手方に対して定型約款を記載した書面を交付していた場合、または、これを記録した電磁的記録を提供していた場合には、あらためて定型約款の内容を示す必要はありません。


 したがって、企業側からすれば、請求されてからではなく、あらかじめ定型約款の交付・提供をしておくべきでしょう。
 


4 定型約款の変更


 さまざまな場面を想定して作成されたはずの約款であっても、その内容を変更する必要が生じることもあり得ます。しかし、定型約款準備者の側が一方的に変更できるとすれば、一般消費者等の相手方にとっては、思わぬ負担を強いられかねません。そこで、改正法は、定型約款の変更について、以下のように規定しました。
 定型約款準備者は、
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき、または、
イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき、
には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。


 なお、定型約款準備者は、上記の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければなりません。
 また、とくにイの規定による定型約款の変更は、変更の効力発生時期が到来するまでに、上記の方法による周知をしなければなりません。


 したがって、企業側からすれば、定型約款の変更のための周知方法をどのようにするか、具体的には自社のHPにどのように掲載するかなどを、あらかじめ検討しておくべきですし、一般消費者側からすれば、定型約款の変更には、注意をしておかなければなりません。(浜島将周)

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