緑オリーブ法律事務所ブログ

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橫地が担当させて頂いた事件についてご報告させて頂きます。
(名古屋南部法律事務所の竹内平弁護士と共同受任)


・事案
Xさんは,平成22年,ある生命保険会社に,
営業職員の採用と育成を担当するマネージャー職として入社しましたが,
その後会社が吸収合併され,合併時に,一般の営業職になったとされ,
その後,業務命令違反があったとして懲戒解雇されました。
そこでXさんは,平成24年,雇用主Y社に対して,解雇は無効であるとして,
雇用契約上の地位にあることの確認と未払賃金等の支払を求めて提訴しました。
Xさんは,労働契約を締結するにあたって,一般の保険営業職の仕事はしない,
営業職員の採用と育成を担当するマネージャー職に限定するという合意をした,
合併後もそのような契約内容が新しい会社に引き継がれるはずだが,
一般営業職に配転されたことは労働契約上の合意に反する,等主張しました。


・第一審判決(平成27年10月22日名古屋地方裁判所判決,田邊浩典裁判官)
Xの主張したような合意を認めず,会社は業務上の都合で配置転換や職種変更ができるので,
合併に際して一般営業職にしたことを有効としました。
そして,Xさんが一般営業職として,会社から命じられた業務に従事しなかったので
懲戒解雇は有効と判断しました。
Xさんが控訴しました。


・控訴審判決(平成29年3月9日名古屋高等裁判所判決,藤山雅行裁判長,上杉英司裁判官,丹下将克裁判官)
雇用契約書の形式的内容のみからではなく,採用当時の会社の状況,採用経緯,入社動機,適性,待遇,
入社後の業務などを実質的,総合的に判断して,
少なくとも当初の条件だった固定報酬の期間,直接的な営業活動をすることを義務的な業務としないことや,
意に沿わない転勤をしないことが保障されていたとして,
Xさんと会社との間で,一定期間の職種及び一定範囲で職場を限定する合意があったと認めました。
配転命令の効力については,会社都合でXさんの職種を短期間で廃止した上,
上記職種限定からはずれるものを含むわずかな選択肢しか提示せず,
信義則上求められるしかるべき説明や柔軟かつきめ細かい対応(会社規模からは可能)もせずに,
Xさんの最も意に反し,かつ最も待遇面で不利益が大きい一般営業職としたことは,
正当な理由のない配転命令で,懲罰的人事ともいえるから,人事権濫用として無効と判断し,
一般営業職の仕事を前提とする懲戒解雇も合理的理由がなく無効としました。
そのうえで,Xさんの雇用契約上の地位を確認し,未払賃金の支払い,懲戒解雇による慰謝料と弁護士費用
の支払請求も認めました。


控訴審判決は,労働者と使用者の「合意」により労働契約が成立したり,変更されることや,
労働者も使用者も契約を遵守し,信義に従い誠実に権利行使や義務履行をする,
権利行使は濫用してはならない,などの労働契約法の理念やルールに沿った,
適切かつ妥当な判決だと思います。


・Xさんがこの裁判に臨んだ思い
採用募集時には良い話を提示して勧誘し、入社時には,形式的なもの,など言いながら
採用募集時の話と異なる内容が書かれた労働契約書で契約を締結し、
その後,会社の一方的都合で採用の話の前提となっていた新事業部を廃止した上で,
Xさんを含むマネージャーたちを配転させたのは、
社員の人生をあまりにも軽んじており許されるべきものではない,
配転を受け入れざるを得なかった300名以上の同事業部所属の同僚を代表して,会社の不当性を証明したい,
というのがXさんの思いでした。
膨大な労力や時間,費用というコストをかけ,控訴審でようやく勝訴判決を得たXさんは,
ようやく妥当な判断をしてもらえたが,会社側に都合のよい証拠しか残っていない状況で,
書証のみを重要視する裁判官では労働者側に不利な判断になりえ,
裁判官が全体の事情を総合的にみて事実認定をしてくれるかどうか,
目線をどこに置いて公平に審理判断してくれるかで結論が大きく変わってくる,と感じているそうです。


・上告審
会社側から上告されましたが,2017年10月10日,上告棄却,及び,上告受理をしない旨の決定があり,
控訴審判決が確定しました。

(橫地明美)



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