緑オリーブ法律事務所ブログ

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 少し前のニュースになりますが、相続税の節税目的の養子縁組が有効かどうかが争われた訴訟で、最高裁判所が、「節税の動機と縁組の意思は両立するため、節税が主な目的であっても縁組が直ちに無効になるとは言えない」との初判断を示しました。(日本経済新聞Web版・2月1日毎日新聞WEB版・2月1日


 今回の事件では、ある男性の相続を巡って、3人の子が争いました(男性の妻はすでに死去)。男性が死亡する前年に、長男の息子を養子にしていたため、法定相続人は実子3人(長男と娘2人)と養子1人(長男の子)の計4人となっていました。
 相続税額を計算するにあたっては、遺産全体から3000万円と相続人一人当たり600万円を基礎控除分として差し引くことになっています(2015年改正前は5000万円と相続人一人当たり1000万円が基礎控除分)。このため、相続人が増えれば税負担が軽くなりますので、相続税対策として、養子縁組が利用されるわけです。
 今回もこうした事例のひとつなのですが、長男「側」が実質的に遺産の1/2を引き継ぎ、娘2人が知らぬ間に相続分が減らされてしまったことで、争いになりました。


 法律上、養子縁組をするためには、「縁組をする意思」が必要だとされています(民法802条1号)。この縁組意思には、
①養子縁組の届出をする意思(「形式的意思」といわれます)
②養親子関係を形成する意思(「実質的意思」といわれます)
の①だけあればいいのか、①に加え②まで必要なのか、学説上の争いがあります(同じことは逆の「離縁」や「結婚」「離婚」でも問題になります)。そして、養子縁組や結婚のように新たに身分関係を形成する場合については、②までが必要だというのが判例の傾向でした。


 この点、第一審東京家裁は、養子縁組届に男性本人が署名・押印していたことなどから、縁組を有効だとしました。①だけでよいという考え方に近いといえます。


 控訴審東京高裁は、男性に親子関係をつくる意思がなく、節税対策に過ぎないとして、無効だとしました。ちゃんと②まで必要だという考え方といえるでしょう。


 これに対して、最高裁は、「相続税の節税の動機と養子縁組をする意思とは、併存し得る」として、「専ら相続税の節税のために縁組をする場合」でも、「当事者間に縁組の意思がない場合に直ちに当たるものではない」として、本件の縁組を有効だとしました。
 ただし、この最高裁判決は、節税目的の養子縁組であってもいつでも必ず有効だ、といっているわけではないことには注意が必要です。節税目的と縁組意思(①と②の両方)が併存し得る、といっているに過ぎません。ただ、最高裁の言い方からみて、東京高裁判決のような、ちゃんとした養親子関係をつくる意思までは求めておらず、かなり抽象的な意思で足りそうです。資産家が相続税対策として、子の配偶者や孫を養子にするという現状を追認した判断だといえるかもしれません。


 法務省の統計によると、ここ数年の間、毎年8万件を超える養子縁組の届出が受理されているそうです。
 かつては節税目的に多数の養子縁組をするケースがあり、1988年に、控除に算入できる養子は実子がいれば1人まで、いなければ2人までと制限されました。また、国税庁は、課税逃れが明白な縁組の場合には、養子分の控除を認めないとの方針を示していますが、本判決を受けてもその方針は維持されるようです。(浜島将周)

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