緑オリーブ法律事務所ブログ

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契約社員として工場で働いていたXさんが,グループ会社の男性管理職Yから,仕事中につきまとわれて交際を求められたり,自宅におしかけらられたり自宅付近をはいかいされたというセクハラとストーカー行為を受け,仕事への支障と心身の不調をきたし,ついには退職を余儀無くされたため,Yと,Xの雇用主A,Yの雇用主B,A・Bの親会社であるCに対して慰謝料等を請求する裁判を起こしました。当事務所の濵嶌,亀井,橫地がXさんの代理人を務めました。

第1審は,セクハラ等行為自体を認めずに原告の請求を棄却しましたが(岐阜方裁判所大垣支部 平成27年8月18日判決),当方(X)が控訴したところ,控訴審判決(名古屋高等裁判所 平成28年7月20日判決,藤山雅行裁判長,上杉英司裁判官,前田郁勝裁判官)は,セクハラ等の行為がありYに不法行為が成立するなどとして,Y,A,B,Cに連帯して220万円の支払を命じました。

なお,控訴審判決に対しては,Cが上告し,Y,A,B,Cが上告受理申し立てをしています。

セクハラやストーカー被害についての裁判は,一般的に,客観的証拠が乏しいケースが多いため,セクハラ等の行為があったことを認定してもらうことが難しいです。何をされたのかや経緯,状況は,被害者が体験していることなので,被害者供述が最大の証拠であり,それを裁判所に信用してもらえるのかが大きなポイントとなります。

さらに加害者側は,被害者と交際していた,性的行為について被害者の同意があった,同意があったと思っていたなどと反論することが多く,裁判所がこのような主張を受け入れて,性的言動が違法行為といえないと評価したり,加害者の故意や過失が認められないとして,法的責任を否定することもあります。

今回,被告側は,職場の人間関係悪化をおそれながらXさんがYとやりとりしたメールから「交際」を強調し,セクハラ行為等を認めない,あるいは,押しかけや接触をしたことはあったが大した行為ではない,本件についてXさん側からAやCに相談はなかった旨反論し,Yにも,会社側にも法的責任はないと主張していました。

控訴審判決は,証拠を丁寧にみたうえで,Xさんの供述は信用でき,Yや会社側証人の供述は信用できないとし,セクハラやストーカー行為を認定して違法性も認めました。

控訴審判決からは,職場で弱い立場にある人が,強い立場にある人からセクハラなどの人格や尊厳を傷つけられるような被害に遭い,それでも働き続けるためには,被害者が職場やその延長線上での加害者との関係を断ち切れず,さらに被害に遭い,ひいては退職に追い込まれることがあるという,被害者の事情や行動心理について,裁判官の深い洞察と経験則(裁判官としてもつ一般常識のようなもの)がうかがわれます。

Xさんは,被害を受けてから退職するまでの期間に,自身の会社(A)の上司に複数回,被害を訴えて相談し,対応を求めました。しかしAが真摯に対応してくれなかったため,XさんはYからできるだけ離れ,それ以上の被害を避けるために退職せざるをえませんでした。ところが退職後も,YがXさんの自宅付近をはいかいしていたので,Xさんは,警察や弁護士への相談と並行して,グループ会社従業員全体に対してもコンプライアンス相談窓口を設けるなどしてコンプライアンス遵守(法令遵守)をうたっていたCの相談窓口へ,知人を通じて被害を訴え,事実調査等を求めました。しかしCは,Xさんに事情の聴き取りもせず,Yの話から,交際していたというので個人的問題にとどまるとし,それ以上は対応しませんでした。

控訴審判決は,Yの不法行為責任,Aの雇用契約上の安全配慮義務及び雇用機会均等法11条1項の措置義務の各違反に基づく責任,Bの使用者責任を認めたほか,Cについても,傘下のグループ会社ABが,Cが構築したコンプライアンス体制による対応を十分に履行せず,C自身,コンプライアンス相談窓口で直接本件について相談を受けたにもかかわらずしかるべき対応をとらず,Xさんの恐怖と不安を解消させなかったとして,債務不履行責任を認めました。

セクハラやストーカーの裁判で認容される損額額は,不法行為の態様や内容,どのような内容と程度の被害が生じたかにもよりますが,被害者がPTSDなどになったり,退職に追い込まれたことによる逸失利益(会社を辞めなくて済んだ場合の賃金相当額)が認められる場合を除けば,数十万円程度の低水準のものが多いです。

しかし今回の控訴審判決は,セクハラ等の態様,経緯,Xさんの心身に与えた影響,被告らの事後的にも不適切な対応その他の一切の事情を総合考慮して,請求額には及ばなかったものの,220万円というかなり高額な金額を認めました。Xさんの賃金を考えれば,実質的には退職させられたことも含めて損害を評価したとみることもできます。

Xさんは,セクハラやストーカーの被害を受けて,会社に相談したのに何もしてもらえなかったことが原因で退職せざるをえなかったことを,裁判所に認めてもらいたい,YやA,BだけでなくCの責任も問いたいという思いでこの裁判に臨みました。一審は残念な結果でしたが,控訴審ではその思いを理解してくれる裁判所があると分かり,泣き寝入りしたり諦めたりせず,控訴してよかったとおっしゃっています。

上告審のゆくえは分かりませんが,個人の被害を救済するという裁判所の役割をしっかり果たして頂くべく,また,同様の被害に遭っている方に今回の判決を役立てて頂き,そして,会社側がセクハラ等の防止と事後対応に十分取り組んで頂くためにも,代理人として,ご本人と一緒に,勝訴判決確定に向けて引き続き努力する所存です。

(橫地明美)

 

 

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