緑オリーブ法律事務所ブログ

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2年ほど前に『認知症に関わる報道2つ』と題してこのブログでも取り上げた認知症男性の事故死に関する訴訟について、最高裁判決があり、全国でも報道され(朝日新聞DIGITAL・3月1日読売ONLINE・3月1日など)、地元中日新聞では一面トップの扱いでした。(中日新聞・3月2日朝刊

事件は、2007年12月、認知症で徘徊していた男性が、JR東海共和駅(愛知県大府市)構内の線路上で列車にはねられ死亡したところ、JR東海が男性のご遺族に対し、振り替え輸送費用などの損害約720万円を賠償するよう求めた、というものです。
第一審 名古屋地裁は男性の妻と長男について賠償を全額認容、控訴審 名古屋高裁は妻だけに約360万円の賠償を認容、JR東海とご遺族の双方が上告していました。

民法714条は、認知症などで責任能力を問えない者が他人に損害を与えた場合に、法定の監督義務を負う者に賠償責任がある、と定めています。
男性の妻(男性と同居して介護を担っていたが、高齢で、自身も要介護1の認定を受けていた。)や長男(男性とは20年以上、離れて暮らしていたが、週末に男性宅を訪ねて男性の介護に関わっていた。)が、この監督義務者にあたるか、が問題になりました。

この点、最高裁は、保護者や成年後見人であるというだけでは、当然には監督義務者にあたるものではない、また、民法752条に定められた夫婦の協力・扶助義務は、夫婦が互いに負う義務であって、第三者に対して、夫婦いずれかに何らかの義務を負わせるものではない、との初めての判断を下しました。
そして、男性の妻や長男は監督義務者に当たらない、としました。

もっとも、最高裁も、一定の場合には、加害者の家族が責任を負うことがある、としています。
すなわち、上述のような法定の監督義務者でなくとも、責任無能力者との関係や日常生活での接触状況から、第三者への加害行為を防ぐため実際に監督しているなど、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合は、監督義務者に準ずる者として、民法714条が類推適用され賠償責任を問えると、としました。
その上で、監督義務者に準ずる者かどうかの判断は、介護者本人の生活や心身の状況、責任無能力者との親族関係の濃密さ、同居の有無、介護の実態などを総合的に考慮し、実際に監督している、あるいは、容易に監督できるなどの事情を踏まえ、責任を問うのが客観的に相当かという観点で判断する必要がある、としています。
そして、男性の妻や長男は監督義務を引き受けていたとはいえず、監督義務者に準ずる者にも当たらない、としました。

認知症のご家族を抱える方々におかれては、ほっと胸をなで下ろされた判決でしょう。
前回も書きましたが、今回の事件では、加害者の遺族は高齢の妻、被害者はJR東海という大企業ですから、そもそもJR東海は請求せずにことを納めることはできなかったのだろうか、と正直なところ思います。
一方で、加害者の家族の責任が一切否定されるようなら、被害者が救済されず泣き寝入りを強いられることがあるのも事実です。
被害者が一個人だったり、加害者の家族が裕福だったり、普段の監督状態が非常に杜撰だったりと、ケースによっては、むしろ家族側に一定の支払を命じた方が妥当な場合もあるでしょう。
今回の最高裁判決は、その余地を残したものだと思われます。

結局は、事故が起きた後のケースバイケースの判断にならざるを得ません。
加害者の家族が過大な負担を負わずにすむ仕組みづくり、例えば鉄道会社は線路への侵入防止策に万全を期する、自治体は地域全体での見守りなどの街づくりをする、政府は負担が家族に集中しないような補償制度を設計するなどの施策を進めるべきです。社会全体で負担を分かち合って、高齢者もそのご家族もみなが安心して暮らしていけるようにしなければならないと思います。(浜島将周)

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