都内の賃貸マンションで、住民のもとにいきなり家賃を2.5倍以上に値上げするとの通知が届いて、住民の4割が退去した、というニュースがありました。(FNNプライムオンライン・6月3日)
そのニュースによると、当該マンションの所有者が外国籍企業に代わった、家賃値上げで住民を退去させ民泊に転用する狙いがありそうだ、とのことですので、背景事情はいろいろ複雑そうです。
ここでは、単純に、突然、貸主から家賃の値上げ通知が届いたらどうなるか、をご説明します。
地価や諸物価の高騰、周辺相場との乖離(長年、入居当時の家賃に据え置かれたままという場合があります。)などから、貸主から、家賃値上げのお願い・通知がされることがあります。
借主がその値上げに納得して受け入れるなら、もちろん、値上げ後の新家賃で、賃貸借契約が継続します。
では、借主がその値上げを受け入れられない場合は、どうなるでしょうか。
【参照】借地借家法32条(借賃増減請求権)
1 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
まずは、貸主・借主が話し合って、妥協点を探ります。貸主から簡易裁判所での民事調停を申し立てて、話し合いを続けることもあります。
話し合っても折り合いがつかないのであれば、貸主は、賃料増額の裁判を提起して、裁判所に判断してもらうことになります。
裁判所は、上記借地借家法32条1項に記載されているような
① 土地・建物に対する租税その他の負担の増減
② 土地・建物の価格の上昇低下その他の経済事情の変動
③ 近傍同種の建物の家賃と比較
その他社会的事情、貸主側の事情、借主側の事情など諸般の事情を参考にして、適正な家賃を判断します。
ですので、今回の事例のように、いきなり2.5倍、しかも周辺相場より高額な家賃への値上げは認められないでしょう(周辺相場並みの家賃への値上げは認められ得ると思います。)。
なお、今回は貸主からの増額・値上げ要求ですが、上記借地借家法32条のとおり、借主からの減額・値下げ要求ができる場合もあります。(浜島将周)
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