今回の衆議院総選挙についても、10月27日の投票日の翌日28日に、全289小選挙区について、一人一票実現訴訟(いわゆる一票の格差訴訟)を全国一斉提訴しました。(中日新聞Web・10月29日、毎日新聞Web・10月29日)
名古屋高裁管轄の全25小選挙区(愛知県16選挙区、岐阜県5選挙区、三重県4選挙区)についても提訴し、夕方のニュースで各局に取り上げていただきました。(NHK東海 NEWS WEB・10月28日、東海テレビ・10月28日)
私たちの弁護士グループがこの運動(訴訟)を始めてから、今回が6回目の衆院選になります。
・ 平成21年総選挙(平成23年3月23日最高裁大法廷判決)…最大較差2.30倍→違憲状態判決
・ 平成24年総選挙(平成25年11月20日最高裁大法廷判決)…最大較差2.43倍→違憲状態判決
・ 平成26年総選挙(平成27年11月25日最高裁大法廷判決)…最大較差2.13倍(小選挙区「0増5減」による区割り見直し)→違憲状態判決
と、最大較差が2倍を超えていたこと、その原因として「一人別枠方式」の採用が挙げられ、同方式には合理性が見当たらないことなどから、違憲状態判決が続いていました。
しかし、前々回
・ 平成29年総選挙(平成30年12月19日最高裁大法廷判決)…最大較差1.98倍(小選挙区「0増6減」による区割り見直し)→合憲判決
と、最大較差が2倍未満となったことに加え、法改正により、将来的に「一人別枠方式」が廃止され、「アダムズ方式」による定数の再配分とそれに基づく選挙区割りがなされることになったことなど、国会の努力の姿勢をも加味しての合憲判決となりました。
そして、前回
・ 令和3年総選挙(令和5年1月25日最高裁大法廷判決)…最大較差2.079倍→合憲判決
と、アダムズ方式による区割りの見直しは間に合わなかったものの、合憲判決が維持されました。
今回の選挙は、「アダムズ方式」による区割り見直しがなされて初めての総選挙であることが、前回までと大きく異なります。(「アダムズ方式」についての詳細は、当ブログの「衆議院小選挙区「10増10減」の改正公職選挙法が成立…これで一人一票は実現されたか?」をご覧ください。)
小選挙区を「10増10減」(東京5増、神奈川2増、埼玉・千葉・愛知各1増、宮城・福島・新潟・滋賀・和歌山・岡山・広島・山口・愛媛・長崎各1減)(全体では「13増13減」)し、かつ、25都道府県の140選挙区で区割りを見直して、衆議院総選挙に小選挙区が導入されて以来最大規模の改定がなされました。
しかし、基礎となった令和2年国政調査時で、すでに最大較差1.999倍に達していました。
令和5年9月1日現在では、議員1人当たりの有権者数が最少の鳥取県第1区の有権者数(226,751人)と最多の北海道第3区の有権者数(460,770人)の較差は2.032倍に広がっています
私たちは、2倍もの最大較差があること=0.5票分の価値しかない一票が存在していること自体がおかしいと考えていますから、(ほぼ)2倍基準に達しているから合憲だとは思えません。
〝1倍〟=一人〝1票〟が実現され、誰にも等しく1票ずつが与えられ、投票価値の平等が達成されてはじめて、民意を正しく反映した国会が形成されます。私たちが求めているのは、そのような民意が正しく反映された国会による意思決定です。
他方で、一人一票の実現は地方の声の切り捨てだ、との声も聞かれます。この点、国会議員は地元選挙区の代弁者でなく、「全国民の代表」(憲法43条1項)ですから、そもそもそのような批判は当たらないのですが、ただ、議員の実態として、「おらが町の代表者」の色合いが濃いのも事実です。
また、一人一票を厳密に実現しようとすれば、市区町村域をほとんど無視して、選挙のたびに区割りをし直さざるを得なくなる、との批判もあります。「投票価値の平等」の重みを考えれば、それも仕方ないように思いますが、候補者と有権者のつながりを希薄にしてしまうようにも思います。
そうなると、これらの問題点も含めて解決するには、小選挙区制をやめるほかないのではないでしょうか。保守から革新までさまざまな政党が存在し、なかなか2大政党制が定着しない日本には、小選挙区制はあわない、もっと大きなまとまりでの選挙制度を検討すべきです。
今回の訴訟にも是非ご注目ください。(浜島将周)
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