旧優生保護法(※1)下で不妊手術を強いたのは憲法違反だとして、障害のある人らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁判所大法廷は、裁判官15人全員一致で、旧優生保護法は違憲だと結論づけ、国に損害賠償を命じました。「国を免責するのは著しく正義・公平に反する」として、不法行為から20年の経過で賠償請求権が消滅する「除斥期間」(※2)を適用しませんでした。(NHK NEWS WEB・7月3日、朝日新聞DIGITAL・7月3日、読売新聞ONLINE・7月3日)。
なかなか違憲判断をしないといわれる日本の裁判所において、最高裁の法令違憲判断は13例目です(ちなみに、1例目は、現在、NHKの朝ドラ『虎に翼』で話題の1973(昭和48)年「尊属殺重罰規定」違憲判決)。
最高裁が、「不良な子孫の出生を防止する」との目的で1948年に制定された旧優生保護法により不妊手術を強制された被害者の救済に舵を切ったことになります。
大法廷は、旧優生保護法が、「意思に反して身体への侵襲を受けない自由」を保障した憲法13条、法の下の平等を定めた憲法14条に反し、立法そのものが違法だと指摘しました。そして、国が政策として障害のある人を差別して不妊手術を推進した結果、約2万5000人が生殖能力を失う重大な被害を受けたとし「国の責任は極めて重大だ」と批判しました。
その上で、国が1996年に障害者差別に当たる条文を削除した後も長期間にわたり補償しなかったことなどを考慮すれば、免責は許されず、除斥期間が経過したとの国の主張は「信義則に反し、権利の乱用で許されない」と結論づけました。除斥期間について、著しく正義・公平の理念に反して到底容認できない場合は適用しないとして、判例を変更しました(宇賀克也判事は、そもそも除斥期間とせず、時効と考えるべきだとの補足意見を付けました。)。
今回の大法廷が判決を言い渡したのは、札幌・仙台・東京・大阪・神戸の各地裁の5訴訟についてで、うち4訴訟は、国に損害賠償を命じた高裁判決が確定しました。除斥期間により原告の請求を棄却した仙台訴訟は、高裁判決が破棄され、損害額算定のため差し戻されました。
名古屋でも同様の訴訟が係属していますが、この最高裁判決がベースとなって、判断がなされることになりそうです。
(※1)旧優生保護法
「不良な子孫の出生を防止する」との目的で1948年に制定。精神疾患や障害のある人に、本人の同意がなくても不妊手術や中絶手術の実施を認めていた。1996年に一部条文を削除し、母体保護法に改称。国の統計によると、不妊手術をされたのは約2万5000人。2019年4月、被害者に320万円を支払う一時金支給法が議員立法で成立したが、支給認定を受けた人は今年5月末時点で1110人にとどまるという。
(※2)除斥期間
法律上の権利を行使できる期間で、その期間が過ぎると権利が消滅する。改正前民法は、不法行為から20年の経過で損害賠償請求権が消滅すると規定。これについて、最高裁は、この20年を「除斥期間」だと判断していた。しかし、被害救済できないケースが起こるとの批判が強く、改正民法では当事者の事情によっては請求権が残る「時効」とすることが明記された(改正民法施行前に20年が経過した事案には適用されない。)。
・日本弁護士連合会が、「旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明」を
・愛知県弁護士会が、「最高裁判所の旧優生保護法国家賠償請求訴訟判決を受けて、旧優生保護法下のすべての被害者に対する全面的被害回復を求める会長声明」を
それぞれ発出しました。ご一読ください。(浜島将周)
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