連日のように報道されている、元通訳の男性の事件に関連して、「彼は自己破産できますか?」というご質問を受けました。
問題点はふたつあります。(以下は、日本の法律に従った解説です。アメリカ・カリフォルニア州の法律は分かりません。ごめんなさい。)
1.免責を受けられるか?
「自己破産できますか?」とのご質問でしたが、「使い込んだお金の返済義務が免除されますか?」という趣旨のご質問だと思います。
まず、厳密には、「自己破産」手続は、自分の財産や収入だけでは債務(借金)全額の返済ができなくなった状態だと認められた段階(「破産」手続)と、債務(借金)の支払義務の免除が認められた段階(「免責」手続)の2段階に分かれています。(以上、詳しくは、当ブログ2016.7.18.「「破産」と「免責」」をご覧ください。)
この内の第2段階の免責手続において、一定の事情がある債務者については、不誠実であって債務(借金)の支払義務を免除させることは適切でない、とされ、免責が認められないことがあります(破産法252条1項)。
その中のひとつに、「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」という条項があり(破産法252条1項4号)、ギャンブルによる借金はこれに該当します。
もっとも、免責不許可事由に該当すると、免責が一切認められなくなるというわけではありません。裁判所が、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」ともされています(破産法252条2項)。
実際、債務者に反省文を書かせる、裁判官が個別に面接してお灸を据える、破産管財人を選任して破産者が真面目に節約生活が送れるかしばらく観察させる、などして債務者の反省を促し、様子を見て、最終的には免責を認める場合がほとんどです。
とはいえ、今回の事案では、度が過ぎているので、免責が認められないように思います。(以上、詳しくは、当ブログ2016.8.18.「「免責不許可事由」とは」をご覧ください。)
2.債務が免除されるか?
仮に、自己破産手続がすべて済んだ場合、基本的には、債務者が負っていた債務は支払義務がなくなり、返済しなくてもよくなります。
しかし、どんな債務であっても免責されるというわけではありません。「非免責債権」といわれる、自己破産手続後も免責されない(債務が残り続ける)債務があります(破産法253条1項)。
その中のひとつに、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」という条項があります(破産法253条1項2号)。単なる不法行為ではなく、積極的な加害の意思を意味しているとされています。
今回の事案は、これに該当すると思われます。(以上、詳しくは、当ブログ2015.4.29.「破産してもなくならない負債があります」をご覧ください。)
結局、使い込んだお金の返済義務が免除さない、という結論になるでしょう。
この件についていうと、ギャンブル依存症の恐ろしさを垣間見たように思います。大阪では、万博開催後のカジノ構想が目論まれているようですが、本当にそれでいいのか、と疑問に思います。(当ブログ2018.4.28.「カジノ解禁と刑法、破産法」もご覧ください。)(浜島将周)
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