緑オリーブ法律事務所ブログ

緑オリーブ法律事務所ブログ

 インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を個人事業主(フリーランス)として委託され、仕事中に負傷した男性が、労働基準監督署から労災認定されたことが大きく報道されています。(NHK NEWS WEB・10月4日日経新聞WEB版・10月4日


 アマゾンの配達員は、アマゾンジャパン合同会社から商品配送に委託を受けた下請け会社との間で業務委託契約を締結し、「個人事業主」として配送業務を行っている場合がほとんどです。
 個人事業主は「事業主」であって「労働者」ではないので、本来、労災の対象外となります。
 ただ、実態は雇用されている労働者なのに、業務を請け負う形で働かされている個人事業主も多く、「名ばかりフリーランス」などと呼ばれ、労働基準法で保護されないことが問題視されてきました。


 今回、労基署は、男性が指揮命令を受けて働く「労働者」に該当し、補償を受ける権利があると判断したことになります。
 弁護団によると、「アマゾンが提供するアプリから配達に関する指示が出ていた」ことが重視されたようです。


 アマゾンの配達を支える多くの個人事業主が、実態は労働者で補償の対象となり得ることを示したわけで、個人事業主を労働力として利用する他の企業にも影響することでしょう。


 少し長いですが、今回の事案と労災認定の経緯が詳細に記載されていますので、以下、「アマゾン労働者弁護団」の声明を貼り付けておきます。(浜島将周)


*


すべてのアマゾン配達員を「労働者」として雇用することを求める弁護団声明
―アマゾン配達員に対する労災認定を受けて―


2023年10月4日
アマゾン労働者弁護団




 本年9月26日、当弁護団所属の弁護士が代理人を務める配達員A氏につき、横須賀労働基準監督署長は、A氏が配送中に負ったケガについて、A氏を「労働者」と認め労働者災害補償保険法上の休業補償給付をする決定をした(以下、「本決定」という。)。A氏は連合・全国ユニオン傘下の東京ユニオンが結成したアマゾン配達員労働組合横須賀支部の組合員である。


 A氏は、アマゾンジャパン合同会社(以下、「アマゾンジャパン」という。)から商品配送の委託を受けた株式会社若葉ネットワーク(以下、「若葉ネットワーク」という。)との間で業務委託契約を締結し、個人事業主として配送業務を行っていたところ、2022年9月9日夜8時ころ、注文者宅のポストに投函しようとした際、階段(15段)のスロープ最上部で左足を滑らせ、これによって体のバランスを崩してしまい、階段から転落して腰椎圧迫骨折の大けがを負った(以下、「本件事故」という。)。本決定は、A氏が、個人事業主ではなく労働者災害補償保険法上の「労働者」に該当することを前提として、A氏に対して休業補償給付をするものである。


 当弁護団と労働組合は、アマゾン配達員らはアマゾンジャパン及び若葉ネットワークら下請業者の指揮監督の下で配送業務を行っており、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に該当すると一貫して主張してきた。今回の決定は当弁護団と労働組合の主張を認め、労働者性を肯定した画期的な労災認定であり、高く評価するものである。


 現在、A氏に限らず、全国各地で働いているほぼ全てのアマゾン配達員は、その労働実態に反して個人事業主と偽装させられ、労働関係法令による保護を全く受けることができない働き方を強いられている。下請業者と契約している配達員は、アマゾンジャパンからアマゾンアプリを通じて毎日大量の配送を指示され、1日10〜12時間前後の長時間労働が常態化している。A氏に限らず、有給休暇もなく、満足な休憩時間も与えられずに、疲労困憊のなかで配達中の事故・怪我も発生している。ところが、怪我や病気で休んでも、休業補償もなく治療費も一切支払われない。これまでは療養・休業の不利益は配達員が一方的に負わされてきた。しかし、本決定により、今後は全国のアマゾン配達員が配達中の事故による療養や休業に対して労働者災害補償保険法上の保険給付がなされることになると予測され、多数の配達員が救済されることになる。


 また、労働者災害補償保険法上の「労働者」は労働基準法上の労働者と同義であると解されており(最一小判平成8年11月28日)、本決定によりアマゾン配達員が労働基準法上および労働契約法上の「労働者」と認められる可能性が高くなったと言える。本決定は、法定労働時間の制限、休憩、有給休暇の保障、残業代の支払いを含む労働基準法上の権利行使や監督行政の可能性を開いたといえる。


 さらに、アマゾンフレックスの配達員は、不安定かつ予見不可能な勤務シフトを強いられ、正当な理由のないアカウント停止(解雇)も頻発しているが、今後は不当な解雇についても、アマゾン配達員に労働関係法令上の保護が広く及ぶ途を開いたものといえる。


 アマゾンジャパン及び若葉ネットワークを含む全ての下請業者は、本決定を受けて、速やかに、すべてのアマゾン配達員との契約関係を雇用契約とし、労働関係法令に適合するよう労働条件及び就労環境を是正改善すべきである。また、これらの課題を話し合うために、労働組合との団体交渉にも速やかに応じるべきである。


 特にアマゾンジャパンには、法定労働時間の遵守をはじめ違法状態の是正に向けた積極的な役割が求められる。アマゾンジャパンは、アマゾンの開発したアルゴリズムを用い、アマゾンの開発したアプリを通じて配達員(下請業者と契約する配達員を含む)に業務を指示し、作業の進捗を管理し、業績を評価管理している。配達員の過重労働に最も重い責任を負うのもアマゾンジャパンである。また、アマゾンジャパンは、利用者に配送コストを価格転嫁できる地位にある。サプライチェーン上の影響力を用い、下請業者に対して時間外労働手当を含め必要な原資を提供しつつ、労働関係法令を遵守させる責任を負うものというべきである。


 物流は市民生活の生命線である。にもかかわらず、物流の現場で働くエッセンシャルワーカーたちの権利があまりにも蔑ろにされている。その背景には、行政・司法・立法が労働者性の認定を曖昧にし、「偽装フリーランス」の横行を許してきた問題がある。本決定を機に労働者性推定規定の創設など、有効な対策を取ることを期待する。また、物流業界においても、発注者・受注者・労働組合の協議のもと、納期や費用について見直しを進め、労働者が人間らしく働き続けられる労働環境の実現を求める。


以上



― 緑オリーブ法律事務所は名古屋市緑区・天白区・豊明市・東郷町を中心にみなさまの身近なトラブル解決をサポートする弁護士の事務所です ―

  • <
  • 1
  • >