マイナンバーとマイナンバーカードの利活用拡大に向けた改正マイナンバー法などの関連法が、6月2日の参院本会議で賛成多数で可決、成立しました。(NHK NEWS WEB・6月2日、朝日新聞DIGITAL・6月2日、中日新聞WEB版・6月2日)
① 2024年秋に現行の健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化すること
に注目が集まっていますが、このほか、
② マイナンバーと公金受取口座とのひもづけを進めること(明示の同意を不要とする。)
③ マイナンバーの利用分野を拡大すること(これまでの社会保障・税・災害対策の3分野に加え、国家資格の取得・更新、自動車登録の手続きなどを加える。)
④ 法改正なくマイナンバーの利用・情報連携を可能とすること(これまで利用・情報連携に法改正が必要だったところ、すでに法律に規定されている事務に「準ずる事務」であれば法改正でなく省令などで対応可能とする。)
という3つの大きな改正点が盛り込まれています。
現状、毎日のようにマイナンバー・マイナンバーカードを巡るトラブルが報道されていますが、それらの不安は解消されないまま、マイナンバーとマイナンバーカードのさらなる利活用拡大に向けて舵が切られました。
プライバシー権をあまり重視していない最高裁判所ですら、先日(3月9日)のマイナンバー法違憲訴訟判決では、マイナンバーの利用範囲が社会保障・税・災害対策の3分野に限定されていることなどをふまえて合憲としたのに(2023年3月10日「マイナンバー違憲訴訟 最高裁判決」)、それすらあっさりと無視されました。
改正法は問題が多すぎるといわざるを得ません。
改正法成立前のものですが、改正法の問題点を的確に示した声明を自由法曹団が発出していました。ご参考までに、以下、貼り付けておきます。(→PDFファイルはこちら)
(浜島将周)
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「国民のプライバシー権を軽視し、医療現場の崩壊を招く個人番号法「改正」法案の廃案を求める声明」
1 2023年3月7日、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」が今国会に提出され、衆議院を通過のうえ、現在参議院にて審議が行われている。同法案は、社会における抜本的なデジタル化の必要性とマイナンバー及びマイナンバーカードについての国民の利便性の向上を掲げ、①個人番号法(マイナンバー法)が当初予定していた「税・社会保障・災害対策」の3分野以外の行政事務についてもマイナンバーの利用推進を図ること、②従前はマイナンバーの利用及び情報連携に法改正が必要であった事務に関し法改正なくマイナンバーの利用及び情報連携を可能とすること、③マイナンバーカードと健康保険証の一体化、④マイナンバーと公金受取口座の連携に明示の同意を不要とすることなどが規定されており、個人情報保護を軽視し、マイナンバーの利活用優先を前提とした内容となっている。
2 同法案は、衆議院及び参議院の「地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会」において審議されているが、国民の個人情報の取り扱いのみならず医療のあり方・国民皆保険制度すら大きく変容する内容であるにもかかわらず、審議時間は限定されたものとなっている。
しかし、その限られた時間ですら、数多くの問題点が指摘され、紐付けされる情報の範囲拡大に対する国民の理解が得られていない点やワーキンググループ委員から示された個人情報保護に対する懸念、利用拡大に法改正が不要とされる事務の拡大、生じうるリスクの考慮不足について、首肯しうる説明は全くなされていない。
また、マイナンバーカードと健康保険証の一体化については、零細医院の廃業など地方医療に与える重大な影響、高齢者施設での管理に対する不安や負担、従来の保険証との併用の必要性、DV被害者など届出が困難な層に対する配慮他が問われたが、いずれも「調整中」、「検討中」とするのみで具体的な回答はなされていない。
当該改正法が、国民のプライバシー権、自己決定権を大きく侵害するものであるうえ、国民の医療を受ける権利すら損なうものであることが審議の中で明らかとなっている。
3 マイナンバー制度に関して日本各地で違憲訴訟が提起され、2023年3月9日に最高裁第一小法廷は、マイナンバー違憲訴訟(福岡訴訟、名古屋訴訟、仙台訴訟)について現代社会におけるプライバシー権の重要性を無視した合憲判決を言い渡しているが、その判決においてすら、個人番号の利用範囲が社会保障、税及び災害対策等の3分野に係る事務に限定されていること、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由が一般法よりも厳格に規定されていること、という限定をもって合憲としている。また、判決は、マイナンバー制度の無限定な拡大の原因となる、個人番号法第19条による政令等への委任の問題について、政令や個人情報保護委員会規則に委任することができる場合は、法令の規定に基づく審査や調査等が行われる具体的場合に準ずる公益上の必要があるときと相当に限定されていると指摘しており、この点も、制度の無限定な拡大に一定の歯止めをかけている。
本法案は、最高裁が合憲の根拠とした限定論を無視したものに他ならず、国民の個人情報に新たな危険性を生じさせるものと言わざるを得ない。
4 審議の最中にあっても、証明書の誤交付によるシステム停止、マイナンバーを別人の口座や別人の保険証に登録、マイナポイントを他人に付与、など数多くの流出事例・事故事例が報じられているが、デジタル庁はなんら責任を取る姿勢を見せていない。
健康保険証利用についても、オンライン資格確認システム導入が義務づけられ相当量の事務負担・費用負担を課されることになる医療従事者、別途届け出をしなければマイナンバーカードの取得・利用により加害者に居所を知られてしまうDV・虐待被害者など、マイナンバーに関連する個々の国民の不利益は甚大なものとなっており、この不利益を回避するために従来の保険証に代わる資格確認書を使用する場合には、別途申請手続や自己負担の増額などの負担増を余儀なくされることとなる。様々な事情からマイナンバー保険証を利用できない国民に過度の不利益を課す本法案は極めて問題である。
委員会の答弁の中では、2022年度末までにほぼ全ての国民にマイナンバーカード行き渡らせるためのマイナポイント事業として2兆1113億円もの税金が用いられたと述べられているが、2023年5月21日時点で有効申請受付数は人口割合約77.0%と総人口の4分の3程度にとどまっており(交付率は同年4月末時点で69.8%)、多額の税金を用いたにもかかわらず、政府の目論見は挫折した。国民の多くがマイナンバーによる個人情報の連携やマイナンバー制度それ自体に不安を持っていること、国民の不信感が根強いことは明らかである。
マイナンバーの利用拡大は、利便性の向上を優に超えた国民の不利益のうえに行われるのであり、本人の意図しない形でのデータ利用の危険性を更に高めるものと言わざるを得ない。それどころか、マイナカードによる別人の住民票交付、マイナ保険証への別人の医療情報の紐づけ、マイナポイントの別人への付与など制度の根幹を揺るがす重大な問題が次々と生じている一方で、その全容は未解明という状態となっている。このような状況に鑑みれば、現時点で必要なのは、法案の審議・採決などでは決してなく、この事態の解明こそが最優先で行われるべきである。個人情報保護の確保を置き去りにして利活用は進めるというのでは個人情報軽視との批判を免れないというべきである。
医療「利活用」を優先させる一方で、利活用に係る基本的な安全性すら確保されておらず、また、国民の不信感・不利益、医療を受ける権利への悪影響が払拭されていない本法案に対して、自由法曹団は強く抗議し、トラブルについての全容解明を行ったうえで、法案の問題点について徹底した審議を行って廃案とすることを求める。
以上
2023年5月26日
自 由 法 曹 団
団長 岩田 研二郎
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