濵嶌も原告住民側の弁護団(名古屋訴訟)を務めているマイナンバー違憲訴訟について、昨日3月9日、最高裁判所の判決が言い渡され、大きく報道されました。(NHK NEWS WEB・3月9日、毎日新聞WEB版・3月9日、産経新聞WEB版・3月9日)
マイナンバー違憲訴訟は、全国各地の市民が国に対し、国が個人番号(マイナンバー)を含む個人情報(特定個人情報)を収集・保存・利用・提供することは憲法13条の保障するプライバシー権を侵害するとして、マイナンバーの収集・保存・利用・提供の差止めとマイナンバーの削除および慰謝料の支払いを求めた訴訟です。全国8地裁で提訴された訴訟の内、すでに高等裁判所の判決が出されていた仙台・福岡および名古屋の3訴訟について、まとめて最高裁判決が言い渡されました。
判決は極短いもので、「マイナンバーは適切に管理されており安全だ」という国の言い分を丸呑みしたような理由をつけて、漏洩や目的外利用の危険性は極めて低いとし、プライバシーの侵害にはあたらないとの「合憲」判断でした。
それでも、弁護団としては、判決理由中の以下の判断には着目すべきだ、と考えます。
① まず、最高裁が、マイナンバー制度を合憲とする理由として、マイナンバーの利用範囲が社会保障、税および災害対策の3分野にかかる事務に限定されていること、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由が一般法よりも厳格に規定されていることを指摘した点です。
② 次に、最高裁が、マイナンバー制度の無限定な拡大の原因となる、マイナンバー法19条による政令等への委任の問題について、政令や個人情報保護委員会規則に委任する場合も、具体的な場合に準ずる相当限られた場合に限定されていることを指摘した点です。
マイナンバー制度は、すべての国民および外国人住民に対し、原則として生涯不変の個人識別のための個人番号(マイナンバー)を付与し、個人情報を取り扱う際にその番号をインデックスとして利用することにより、各分野で収集された個人情報の名寄せ・突合を確実かつ容易とすることを骨子とする制度です。
すなわち、マイナンバー制度の下では、各分野で収集・保管された国民等の膨大な個人情報が、各人のマイナンバーをインデックスとして管理されることになります。これにより、大量の個人情報の流出という従来からの危険性にとどまらず、国家に対し個人情報を名寄せ・突合し、プロファイリングすることを可能とする監視社会の礎となるインフラを与えるものとなり、国民等の自由な活動を萎縮させ、民主主義社会の基盤を脅かす重大な危険性を有するものとなり得ます。にもかかわらず、現在のマイナンバー制度・マイナンバー法では、そのような危険性に十分に配慮した対策はとられていません。
最高裁が、上記2点の限定があることを前提に「合憲」判断をしたのは、最高裁が、安易かつ無限定なマイナンバー制度の利用拡大に不安を感じたからだ、とみることができます。
折しも、最高裁判決の2日前の3月7日、政府が、社会保障、税および災害対策の3分野以外の行政事務においてもマイナンバーの利用の推進を図り、かつ、マイナンバーの利用事務の拡大も法改正を必要とせず省令の見直しのみで可能とするなどの内容の法案を閣議決定した旨が報じられました。(NHK NEWS WEB・3月7日、読売新聞ONLINE・3月7日、朝日新聞DIGITAL・3月7日)
しかし、上記のとおり、最高裁は、マイナンバーの利用について厳格な制限があることを理由に「合憲」判断をしたのであり、このような閣議決定に基づく法改正は、最高裁判決と整合しておらず、到底許されるものではありません。
全国では、まだ高等裁判所に係属中の訴訟もありますし(東京・神奈川・金沢)、上告中だが今回の判決対象とならなかった訴訟もあります(大阪)。弁護団は、これら訴訟において、今回の閣議決定もふまえて主張を補充し、国による無限定なマイナンバー制度の拡大に断固として反対していく所存です。(浜島将周)
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