知り合いの弁護士から紹介された映画なのですが、是非多くの方にご覧いただきたく、ご紹介いたします。(浜島将周)
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2007年のことですが、知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害がある25歳の青年が、不審者に間違われ、警察官に取り押さえられて死亡するという事件がありました。
健太さんの会(安永健太さん事件に学び 共生社会を実現する会)では、第2の健太さんを生まないため、この事件を広く知っていただくべく、30分の映画「いつもの帰り道で 安永健太さんの死が問いかけるもの」(監督:今井友樹さん)を制作し、無料公開しています。是非ご覧ください。
→ http://yasunagajikenwokangaeru.blogspot.com/p/blog-page_28.html
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(以下、健太さんの会のHP「知的障害のある安永健太さんの死亡事件を考える」より)
安永健太さん死亡事件とは
●事件と裁判について
2007年9月25日、安永健太さん(当時25歳)は、自転車に乗って障害者作業所から自宅に帰る途中、不審者と間違われ、警察官から後ろ両手錠を掛けられ、5人もの警察官にうつぶせに取り押さえられて突然亡くなってしまいました。
健太さんには中等度の知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害があり、コミュニケーションが難しいという特性がありました。健太さんは警察官と相対していた時も、「アーウー」としか言葉を発していませんでした。しかし、警察官は誰一人として健太さんに障害があることに気づきませんでした。
健太さんを取り押さえた警察官は、一旦不起訴処分となりましたが、健太さんが死んでしまった原因を知りたいという一心で、家族は警察官に対し刑事裁判を要求(付審判請求)し、刑事裁判が開始されました。しかし、無罪という結果となりました(2012年9月18日最高裁決定)。
また、家族は同じく真相究明のため、佐賀県警に対して民事裁判も起こしました。しかし、佐賀県の責任は認められないまま、裁判は終わりました。
●裁判で示されたこと、わかったこと
民事裁判における2015年12月21日福岡高等裁判所の判決において、
「相手が知的障害者であると知っている場合はもちろん、知らなくてもその言動などから障害があるとわかる場合には、警察官は、ゆっくりと穏やかに話しかけて近くで見守るなど、その特性を踏まえた適切な対応をしなければならない」
ことが初めて示されました。
しかし、「障害があるとわかる場合」を極めて限定的なものとして、健太さんのケースでは適用されないとの判断を下しました。
これでは、一般的な注意義務を認めたものの、多くの具体的な場面では適用されないことになり、保護名目での障害者への強制的取り押さえ行為を容認してしまいます。このままでは、今後も健太さんのような痛ましい死を回避することはできません。
しかし、上告は棄却され、この判決は維持されてしまいました(2016年7月1日最高裁決定)。
裁判の過程では、警察、裁判所ともに障害への理解が不十分であることが露呈されました。
健太さんに障害がなければ、死亡事件に発展したとは考えられません。健太さん死亡事件は、
「障害ゆえの悲劇」であり、
「無理解がもたらした致死事件」と言っていいでしょう。
●第2の健太さんを生まないために
健太さんが亡くなってしまった後、障害の分野では、障害者権利条約の国内発効、障害者差別解消法の施行などが実現しましたが、障害のある人と直に接する様々な現場でそれらの理念が浸透するには時間がかかります。
「障害のある自分の子どもも警察官に不審者と誤認され、ひどい扱いを受けた。他人事ではない。」
という声は、今も全国から聞こえてきます。
2016年には相模原障害者施設殺傷事件が起こり、2018年には中央省庁における障害者雇用率偽装が発覚するなど、障害への理解が不十分な社会であることも露呈されました。
健太さん事件が残したものを風化させず、障害への社会の理解(特に警察、司法関係者)を広げていくための活動母体として、2017年7月に「安永健太さん事件に学び 共生社会を実現する会」(略称:健太さんの会)が立ち上がり、継続して活動しています。
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