緑オリーブ法律事務所ブログ

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 心と体の性が一致しないトランスジェンダーの会社員が、勤務先の職場で性自認を侮辱する「SOGIハラスメント」(※)により、うつ病を発症したとして、労働基準監督署から労災と認定されたと報道されました。(読売新聞ONLINE・11月9日


(※)SOGI(ソジ):SOとはSexual Orientation(性的指向)、恋愛感情を抱く相手の性を指します。GIとはGender Identity(性自認)、自分自身が認識する性(自分を男性あるいは女性と認識することのほか、どちらでもない、どちらとは決められないなども含む)いわゆる心の性を指します。


 報道によると、会社員は戸籍上の性は男性で、性自認は女性です。2006年に入社し、2017年に職場で性自認を公表しました。会社側は会社員を女性として扱い、敬称を「さん」とするよう従業員に周知しました。
 その後、会社員と指導役だった上司との関係が悪化していました。2018年4月、別の管理職を交えた話し合いの場で、会社員が上司から「彼」と呼ばれたことに抗議すると、上司は「戸籍上の性別変更をしてから言いなさい」と発言しました。「女性らしく見られたいなら、こまやかな心遣いが必要」とも発言しました。この席で、上司は会社員のことを何度も「彼」と呼び、数日後の話し合いでも「くん」の敬称で呼びました。
 会社員は体調を崩し、医療機関で睡眠障害やうつ病と診断され、2018年12月から休職しました。
 労基署は、こうした上司の発言を「性自認に関する侮辱的な言動。本人の人格を否定する精神的攻撃で、執拗に行われた」と指摘し、会社員に強い心理的な負荷がかかり、うつ病を発症したとして、労災認定しました。
 なお、会社員は2021年9月に復職しています。


 2020年6月から施行されている改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)において、事業主に対してパワハラ防止に関する措置義務が課されましたが、その措置義務の具体的内容が示されている「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」において、SOGIハラやアウティングに関する事項が明記されました。


 しかし、実際には、SOGI ハラやアウティングの事例がまま見られると聞きます。
 今回の労災認定は、長時間労働など他の要因がなく、SOGIハラのみを理由とした認定のようであり、あまり見られない事例です。
 今回の労災認定により、SOGIハラ等の防止や被害者の救済、さらにハラスメント対策全般が進むことにつながってほしいと思います。(浜島将周)



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