緑オリーブ法律事務所ブログ

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 ご紹介が遅れましたが、7月9日、交通事故で後遺障害を負った被害者の逸失利益(事故に遭わなければ将来得られたはずの利益)の賠償方法について、最高裁が、一般的な一括払いだけでなく、月1回などの定期払いも認められるとの判断を示しました。(日経新聞web・7月9日中日新聞web・7月10日
 これまで将来介護費用については、定期金賠償が認められることもありましたが、後遺障害逸失利益については、下級審判決でも定期金賠償が認められることはほとんどありませんでした。今回の最高裁判決によって、後遺障害逸失利益についても、定期金賠償が認められる場合があることになったわけで、交通事故被害者にとって、極めて重要な判決だといえます。


 本件の事案は、事故当時4歳・症状固定時10歳の被害者が道路を横断中、大型貨物自動車に衝突され、脳挫傷等の傷害を負い、後遺障害等級3級(3号)に該当する高次脳機能障害の後遺障害を負ったというものです。最高裁は、定期金賠償を認めた第一審・控訴審判決を維持しました。


 この判決により、被害者は、100%の労働能力を喪失したことを前提に、後遺障害逸失利益として月額35万円余を労働開始年である18歳から労働可能年限とされる67歳までの49年間、受け取れることになりました。
 なお、本判決は、仮に被害者が67歳になる前に死亡したとしても、死亡の事実は考慮されないことと、被害者からの定期金賠償の求めがない限り、裁判所が定期金賠償を認定できないことも判示しています。


 さて、一時金賠償と定期金賠償を比べた場合、定期金賠償のメリットはなにより、受け取れる総額が大きくなることが挙げられます。
 一時金賠償と定期金賠償で総額が異なるのは、一時金賠償では、将来得られるであろう収入を一度にまとめて受け取ることから、賠償額について、資産運用で見込まれる利息を差し引いて計算するためです(「中間利息控除」といいます。)。この計算において、広く「ライプニッツ係数」が用いられてきましたが、中間利息を「5%」としているため、かなり〝減額〟されてきました。
 今回の事案でいえば、定期金賠償とすると、毎月35万円余を18歳から67歳までの49年間受け取れるのですから、総額は2億円を超えます。これに対し、一時金賠償としてライプニッツ係数を用いて計算すると、6500万円ほどになってしまいます。説明は省略しますが、一時金賠償では、就労前の若年者についてはとくに減額幅が大きくなってしまうのです。
 今回の最高裁判決も、交通事故の被害者が定期金賠償を求めていれば常に認められるとしているわけではなく、「損害賠償制度の目的や理念に照らし相当と認められるとき」に限定していますが、これは、将来の収入状況が不確定な若年者が、重度の後遺障害を負った事案の場合を想定していると考えられます。


 他方、定期金賠償では、労働開始年である18歳までの定期金の支払いがないこと、例えば将来、医学の発展によって症状が軽減し、被害者が労働能力を回復すれば、毎月の支払額が減額される恐れがあること(もちろん、その逆もあり得ますが、事故との因果関係を立証できるかの問題が生じます。)などの問題があるほか、なにより、賠償金の支払いが途中で滞るリスクを抱えるデメリットがあります(賠償金を支払ってくれるのが、現実には加害者個人でなく、保険会社だとしても、保険会社が破綻することもあり得ますし、状況によっては保険会社との紛争が一生涯続く負担もあり得ます。)。


 どのような場合に定期金賠償での後遺障害逸失利益を請求すべきか、また、それが認められるかについては、慎重な判断が必要ですし、今後の下級審判例の集積がまたれるところです。(浜島将周)

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