緑オリーブ法律事務所ブログ

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 一昨年2021年10月の衆議院総選挙に関する「一人一票実現」訴訟(いわゆる「一票の格差」訴訟)について、1月25日、最高裁判所の判決が言い渡され、報道各社も大きく取り上げました。(NHK NEWS WEB・1月25日朝日新聞DIGITAL・1月25日毎日新聞WEB版・1月25日など)
 濵嶌は、東海三県の原告のみなさんの代理人を務めました。


 全国の高裁・高裁支部の判断は、「合憲」と「違憲状態」がほぼ二分されていましたが、最高裁は結論として、「合憲」判断を示しました。


 最高裁は、衆院選について、議席配分について一人別枠方式が採用され、かつ最大格差が2倍を超えていた09、12、14年選挙を3回連続で「違憲状態」と判断していました。このため、国会は16年、「アダムズ方式」(※)を20年の国勢調査後に導入すると決めました。経過措置として、定数の「0増6減」を実施し、17年選挙では格差が1.98倍に縮小しました(これについて、最高裁は「合憲」と判断。)。21年選挙ではアダムズ方式の導入が間に合わず、格差が2倍を超えていた点を最高裁がどう捉えるかが注目されていました。


 この点、最高裁は、17年・21年選挙はアダムズ方式の導入決定とともに、20年以降の国勢調査で格差が2倍以上になれば2倍未満になるよう是正する新制度と一体的な関係にある状態で実施されたと評価し、17年選挙で合憲だった司法判断が21年選挙で「違憲状態」となるには、憲法の投票価値の平等の要求に反する新たな要因や著しい格差の拡大が必要だが、こうした事情はないと結論づけました。


(※)アダムズ方式:国会は2022年11月の公職選挙法改正でアダムズ方式による「10増10減」を行い、次回選挙から新たな区割りで実施されることになっています。詳しくは当ブログの「衆議院小選挙区「10増10減」の改正公職選挙法が成立…これで一人一票は実現されたか?」をご覧ください。


 しかし、一人別枠方式の影響下にある17年・21年選挙を、アダムズ方式実施という後付けの理由で合憲と判断するのは、理屈が通っていないように思われます。15名の最高裁判事の内、1名、宇賀克也判事だけ「違憲状態」との反対意見を述べているのですが、その論旨の方が明確だと考えます。
 また、最高裁が〈評価〉しているアダムズ方式による新区割りによっても、すでにして一票の格差が最大1.999倍だというのであり、一人0.5票の有権者が存在していることになります。もともと、アダムズ方式の採用自体が、定数減となる都道府県数をおさえるための妥協の産物でした。
 一人一票の実現のためには、今後も是正の取り組みが求められますが、その際には、ともかく「2倍」を超えないように…という弥縫策にとどめるのではなく、長期的な視点に立った抜本的な制度改正の検討が必要です。
 個人的には、一人一票の実現という観点からも、政党が多数存在し民意の幅が広い日本の実情からも、小選挙区制度の維持には無理があると考えます。(浜島将周)

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