緑オリーブ法律事務所ブログ

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 昨年2022年12月に成立した親子法の一部を改正する改正民法のご紹介、連載3回目です。


 今後ご紹介する改正民法の施行日については、来年4月1日とすることが閣議決定されました。


1.現行民法の規定と、その問題点


 生まれてきた(生まれてくる)子どもの(生物学的な意味での)親がだれか?は、母親については、女性の妊娠・出産の事実で明らかですが(代理出産等の問題はありますが、ここでは触れません。)、父親については、そのような外形がありません。
 この点、現行民法772条は、
1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2項 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
と定めています。つまり、結婚の日から200日経過後か、離婚の日から300日以内に生まれた子どもは、婚姻中に懐胎した子であると推定され、その結果、夫の子であると推定されます(嫡出推定)。
 この嫡出推定を覆すためには、「嫡出否認の訴え」によらなければなりませんが、この訴えは父親(夫)しか提起することができず、母親(妻)や子どもが提起することはできません。しかも、提訴期間は、父親(夫)が子の出生を知った時から1年以内に限られます。


 このような制度が、〝離婚後300日問題〟といわれる問題を生みました。


〈例〉A女は、もともとB男と婚姻していましたが、2020年に別居状態となりました。間もなく、A女は、C男と交際するようになりました。A女とB男は、2023年1月に離婚しました。A女とC男は、同年5月に婚姻しました。A女は、同年7月に子どもを出産しました。


 この例では、常識的に考えれば、生まれた子どもは、C男の子でしょう。A女とB男が別居を続けていたのに対して、A女とC男が交際を続けていたからです。
 しかし、上記の現行民法では、B男の子であると推定されてしまいます。子どもがA女がC男と婚姻してから200日以内に生まれた子であり、かつ、AとBとが離婚してから300日以内に生まれた子であるからです。
 そして、その推定を覆すための嫡出否認の訴えを提起することができるのは、(前)夫のB男だけで、A女もC男も子どもも提起することはできません。A女とB男が別居・離婚に至った状況等(例えば、A女がB男から暴力を受けていたなど)によっては、A女がB男に嫡出否認の訴えを提起するようお願いするのも困難です。
 このような非常識な結果がもたらされてしまう問題が、〝離婚後300日問題〟といわれるものです。


 この〝離婚後300日問題〟は、さらに〝無戸籍問題〟という別の問題の一因にもなっています。
 生まれてきた子どもが新たな夫C男との間の子であるにもかかわらず、法律上は元の夫B男との間の子であると推定され、戸籍上もそのように取り扱われてしまうことを避けるために、A女が出生届を提出しないためです。法務省の調査によれば、令和4年11月時点で、無戸籍者793名のうち581名(約73%)が、このような問題の発生を理由として挙げているのだそうです。


2.改正法の概要


 嫡出推定の制度の目的のひとつに、法律上の父子関係を早期に確定させることが、子どもの福祉にかなうと考えられたことがあります。にもかかわらず、嫡出推定の制度が、上記のような問題をもたらすとすれば、かえって子どもの福祉に反します。


 そこで、改正民法では、
① 離婚等の日から300日以内に子が生まれた場合であっても、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定する。
② 女性の再婚禁止期間を廃止する。
③ 嫡出否認権を、父親(夫)のみならず、母親(妻)や子どもにも認める。
④ 嫡出否認の訴えの出訴期間を、1年から3年に伸長する。
といった見直しがされました。(浜島将周)



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