緑オリーブ法律事務所ブログ

緑オリーブ法律事務所ブログ

侮辱罪を厳罰化
2022-06-15 · by blogid · in 刑事事件, 、 情報問題,

 昨日お伝えした拘禁刑の創設と同時に、刑法改正により、「侮辱罪」(※)の厳罰化も成立しました。(NHK NEWS WEB・6月13日毎日新聞Web・6月13日
 2020年にプロレスラーの女性が交流サイトで誹謗中傷され自死したのを機に、インターネット上の誹謗中傷対策として見直しの議論がされてきたものです。


(※)侮辱罪(刑法231条)
 事実を摘示しないで、不特定または多数の人が見られる中で、他者を侮辱することを内容とする犯罪です。口頭、文書の方法を問いません。
 公然と人をおとしめる行為を対象とし、具体的な事実を示さない点で名誉毀損罪と区別されます。
 現行の法定刑は拘留(30日未満の自由刑)か科料(1万円未満の財産刑)にとどまります。


 今回の改正で、侮辱罪の法定刑に1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金が加えられました。これに伴い、公訴時効は1年から3年に延長されます。時効が延長されることで、悪質な書き込みをした投稿者を特定する捜査が可能な期間も長くなります。
 近く公布され、それから20日が経過して施行されます。


 侮辱罪の法定刑の引き上げにより、刑罰の抑止力が向上しますので、インターネット上の誹謗中傷対策として効果がありそうです。
 しかし、他方で、憲法が保障する表現の自由との兼ね合いが問題とされてきました。いじめといえるような私人に対する誹謗中傷だけでなく、例えば政治家に対する正当な批判まで対象となりかねないからです。
 このため、一部野党は改正法に反対し、与野党の合意で、施行から3年後、表現の自由を不当に制約していないか検証するとした検討条項の付則が設けられました。


 また、侮辱容疑での現行犯逮捕が容易になり得るため、やはり例えば政治家の街頭演説に対してヤジを発した市民が逮捕されるといった事態も生じかねません。
 このため、法務省と警察庁は、現行犯逮捕は「実際上は想定されない」との見解を公表しました。


 日弁連は、侮辱罪の法定刑の引き上げについて、「正当な論評を萎縮させ、表現の自由を脅かすものとして不適切」であるとして一貫して反対の姿勢を示してきました。インターネット上の誹謗中傷への対策としても的確なものとはいえず、「プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報開示の要件を緩和し、損害賠償額を適正化するなど、民事上の救済手段の一層の充実を図るべきである」としています。(2022年3月17日「侮辱罪の法定刑の引上げに関する意見書」
 3年後の見直しの際に、十分な検証が求められます。(浜島将周)



<7.7.追記>
 侮辱罪の法定刑を引き上げた改正刑法が、本日7月7日から施行されました。

  • <
  • 1
  • >