緑オリーブ法律事務所ブログ

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 ご報告が遅れましたが、このブログでも何度かご紹介しておりました原爆症認定訴訟(ノーモア・ヒバクシャ訴訟)(2016年9月14日「原爆症認定訴訟、名古屋地裁が2人の請求を認める」2018年3月9日「原爆症認定訴訟、名古屋高裁で逆転勝訴判決」)について、最高裁判決がありました。
大きく報道されましたので、お聞き及びかと存じます。(NHK NEWS WEB・2月25日FNN PRIME・2月25日朝日新聞DIGITAL・2月25日産経新聞NEWS・2月25日等)


 以前の記事と繰り返しになりますが、原爆症認定には、
① 疾病が被爆に起因するか(放射線起因性)
② 申請時に治療が必要な状態だったか(要医療性)
の2つの要件が必要だとされています。
 この点、名古屋訴訟については、第一審・名古屋地裁は、4人の原告全員について、①放射線起因性を認めたものの、うち2人について、症状は安定しており治療はされておらず、②要医療性は認められない、と判示し、2人について請求認容したものの、2人について請求棄却しました。
 これに対し、控訴審・名古屋高裁は、「被爆者援護法の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷または疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当である」として、地裁判決を是正する判断を行い、第一審敗訴の2人についても②要医療性を認めました。
 被告国が逆転勝訴原告のうちのお一人について上告していました(もうお一人については上告されず、勝訴判決が確定。)。
 今回の最高裁判決は、名古屋訴訟のうち国が上告したお一人と、広島訴訟のお一人、長崎訴訟のお一人の計3名の原告について、いずれも経過観察が②要医療性の要件を満たすか、を争点にまとめて言い渡されたものでした。


 今回の最高裁判決は、②要医療性が認められるには、経過観察自体が病気を治療するために必要不可欠で、積極的な治療行為の一環と評価できる特別な事情が必要だ、との判断を示し、不当にも原告3名全員について、敗訴としました。
 この判決の評価については、以下、弁護団声明を貼り付けます。ご一読ください。(浜島将周)


*


声明
ノーモア・ヒバクシャ訴訟最高裁判決について


2020年2月25日
ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国原告団
ノーモア・ヒバクシャ訴訟弁護団連絡会
日本原水爆被害者団体協議会


1 最高裁判所第3小法廷は、本日、①被爆者の白内障を原爆症と認めた広島高裁平成30年2月9日判決、②被爆者の慢性甲状腺炎を原爆症と認めた名古屋高裁平成30年3月7日判決、をそれぞれ破棄し、被爆者が求めていた原爆症認定却下処分の取り消し請求を棄却するとともに、③白内障を原爆症と認めなかった福岡高裁平成31年4月16日判決に対して被爆者が行っていた上告を棄却する、という不当判決を下した。


2 これらの事件は、被爆者援護法10条1項に規定する原爆症認定の要件である「現に医療を要する状態にある」(要医療性)につき、広島高裁判決、名古屋高裁判決が、経過観察も被爆者援護法10条2項1号の「診察」にあたるとして要医療性を認めたことを破棄し、要医療性を否定した福岡高裁判決を維持したものである。
  原爆の放射線は被爆から75年が経とうとする今もなお被爆者の身体をむしばみ続けている。被爆者の疾病は、原爆の放射線に被爆したために発症し、重篤化しているが故に、国の責任において、被爆者に対する手厚い援護を行うという被爆者援護法の趣旨からも、経過観察は重要な医療行為であり、放射線起因性が認められる疾患を患った被爆者の状態が経過観察にとどまる場合にも要医療性が認められるべきである。
  本日の最高裁判決は、このような被爆者の当然の訴えに耳を貸さず、国の主張を追認したものである。


3 国が、経過観察にとどまる場合には要医療性は認められないといった運用を本格的に開始したのは2009年ころからである。
  松谷訴訟最高裁判決(2000年7月17日)及びその後の集団訴訟、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の多くの下級審判決を通じて、原爆症認定の要件である放射線起因性に関する国の解釈運用が被爆者援護法の趣旨に反することが厳しく断罪された。そのため、国は、原爆症認定基準である「審査の方針」(2001年策定)を廃止せざるを得ず(2006年)、新たに策定した「新しい審査の方針」(2006年策定)も累次にわたる改訂に追い込まれるという中で、放射線起因性を認めながら、原爆症認定のもう一つの要件である要医療性を厳格に解することで、原爆症と認定する被爆者を抑制しようとしたのである。
  本日の最高裁判決は、このような、国の原爆症認定行政を追認し、従来司法が積み重ねてきた被爆者を救済するという積極的な姿勢に自ら反する判断を行ったものといわざるを得ない。
  最高裁が、被爆後75年にわたって様々な健康被害に苦しみ、今なお健康をむしばまれている被爆者の救済に背を向けたことは、唯一の戦争被爆国の最高裁判所として恥ずべき態度であり、厳しく抗議するものである。


4 日本国政府が核兵器の廃絶に背を向け、被爆者の援護にも消極的であり、日本の最高裁判所もこのような政府の姿勢を追認したが、世界では、核兵器の非人道性と正面から向き合い、核兵器の開発、製造、使用等を包括的に違法とする核兵器禁止条約が採択され、発効に向けて批准国を増やし続けている。
  我々は、今後とも原爆被害の実相を明らかにし、核兵器の廃絶と原爆被害に対する国家補償を訴え続ける決意を改めて表明する。
  そして、国民の皆様に対し、改めて被爆者の訴えに理解と共感を示していただくことを訴えるとともに、与野党に対し、日本被団協の提言に基づいて、原爆症認定制度の抜本的見直しを政治の責任において行うことを求める。


以上






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