緑オリーブ法律事務所ブログ

緑オリーブ法律事務所ブログ

 たびたび報道等もされますが、総合病院の勤務医のみなさんの勤務状況は非常に過酷です。宿直勤務や夜間の救急対応をして十分な睡眠をとれないまま、翌日続けて外来診療や入院患者対応をするといった状況が〝ふつう〟になってしまっている病院もあるようです。
 先日、私が通院したとある大学病院で、「病状説明、手術の説明、相談対応等は、原則として平日9時~17時の間に行わせていただきます。」「休日や夜間の診療については、主治医に代わり当番医師が責任をもって対応いたします。」という掲示を見つけました。逆にいえば、以前は休日、夜間を問わずこれらの対応をしてきたわけで、医師の勤務状況を改善するための取組みのひとつなのでしょう。


 さて、このような過酷な勤務状況であるにもかかわらず、その時間外勤務に対して、時間外手当=残業代が支払われていないという事例がしばしば見られ、病院に対して労働基準監督署から是正勧告がなされたり、訴訟に至って裁判所から支払いが命じられたりしています。


 その背景として、医師不足や病院の経営難もあるでしょうが、目の前の患者をほおっておけないという医師の高い職業倫理・使命感に、使用者(病院)側から見れば甘えて、労働者(医師)側から見れば諦めて、「サービス」残業となりがちである、というところもあるのではないでしょうか。


 また、必ずしも医師に限った話ではありませんが、
① 基本給あるいは○○手当に一定の残業代を含めて多めに支払っているから…
② 年俸制だから…
③ 医師は専門職だから…
④ 医師は管理職だから…
残業代を支払わなくてよい、という誤った法的理解が労使ともにされていることもあるようです。
 ちなみに、
① 残業代が定額の残業手当相当額(いわゆる「みなし残業代」)を上回る場合には、その上回った部分については、別途残業代を支払わなければなりません。
② 法定労働時間以上の労働をした場合には、年俸とは別に残業代を支払わなければなりません。
③ たしかに一定の専門職について、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす「専門業務型裁量労働制」という制度があり、医師は高い専門性を有する職種ではありますが、厚生労働省令により定められた専門業務型裁量労働制を採用できる業種の中に、医師(や歯科医師・薬剤師・獣医師)は含まれていません。
④ たしかに労働基準法上の「管理監督者」には、深夜手当を除いて残業代を支払う必要がないとされていますが、病院の経営や職員の採用などに大きな権限を持っている人でなければ管理監督者とはなりませんから、大抵の勤務医は管理職的立場であっても、管理監督者とはいえません。
 というわけで、医師であっても特別なことはなく、一般の労働者と同様に、時間外手当・残業代ももらえるのです。


 働いた分だけちゃんと給与をもらうというのが、医師の労働環境改善のための第一歩ではないでしょうか。病院経営者も患者も行政も、医師の高い職業倫理や使命感にいつまでも甘えていてはいけないと思います。医師にも「働き方改革」がされなければなりません。
 少し前の事件ですが、間宮と濵嶌はとある市立総合病院の勤務医(研修医)の代理人として、病院(市)に対して未払残業代の支払いを求め、勝利的和解を得たことがありました。きちんと残業代をもらっていないという勤務医のみなさん、是非ご相談ください。(浜島将周)

  • <
  • 1
  • >