緑オリーブ法律事務所ブログ

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 昨年7月の参議院通常選挙に関する「一人一票実現」訴訟(いわゆる「一票の格差」訴訟)について、9月27日、最高裁の判決があり、報道各社も大きく取り上ました。(朝日新聞DIGITAL・9月27日産経新聞デジタル・9月27日TBS NEWS・9月27日など)


 今回、最高裁はなんと「合憲」判決を下しました。
 この結論にも判決内容にも、率直に申し上げて失望しました。最高裁自身を含むこれまでの司法の流れをストップさせるものですし、裁判所までが〝忖度〟社会の一員かと嘆きたくなります。


 最高裁が2010年・2013年の各参院選で連続して「違憲状態」と判断したことを受けて、国会は2015年に公職選挙法を改正し、鳥取・島根、徳島・高知の4県2選挙区の合区を含む「10増10減」を実施しました。これにより、一票の格差は最大4.77倍から3.08倍に縮小していました。
 今回の判決は、これを「参議院の創設以来初の合区を行い、数十年間にもわたり、5倍前後で推移してきた格差が縮小した」と評価し、また、2015年改正法の付則に「2019年参院選に向けた抜本的な見直し」が明記され、さらなる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されたとして、「違憲の問題が生じるほどの著しい不平等状態とはいえない」と、合憲と結論づけました。


 今回の判決でも、選挙制度の仕組みを決める上で、投票価値の平等の要請が後退してもよいとはいえないとしています。「誰もが等しく一票」、当たり前のことです。
 他方で、投票価値の平等が唯一絶対の基準ではないとも述べて、都道府県の意義や実態などを一つの要素として考慮しても、国会の裁量を超えるとはいえないとの考え方を示しました。


 参院選では都道府県を単位とした選挙区割りがされてきましたが、人口1000万人を超える東京都と60万人ほどの鳥取県で議員定数を人口比例させることは、限られた議席数(しかも参議院は半数改選)ゆえにそもそも不可能です。
 それゆえ最高裁も2013年には、小手先の是正でなく、「より適切な民意の反映が可能になるよう、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形であらためるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法措置によって、不平等状態が解消される必要がある」と言及していました。
 今回の最高裁判決は、明らかな軌道修正であり、後退した判断だといわざるを得ません。


 懸念されるのは、最高裁が縮小したとはいえ最大3.08倍にも達している較差を容認したことで、国会が参議院の一票の格差の合憲・違憲の判断基準を3倍と捉え、その程度の較差の固定化を招かないかということです。
 3倍の較差があるということは、実質的には1/3票、0.33票しか持たない有権者の存在を認めることになります。それが許される理屈はどこにも見いだせません。


 なお、今回の判決についても、前回に引き続き、鬼丸かおる・山本庸幸両裁判官が明確な「違憲」の反対意見を述べてくださったほか、2人の裁判官が「違憲状態」の反対意見を述べてくださいました。


 さて、安倍首相による突然の臨時国会冒頭解散で、あと3週間ほどで衆議院総選挙になりました。
 自公与党にしっかり対抗していかなければならないはずの野党の動きが混沌としていて、与党にも野党にも市民の声は届いていない、市民が置き去りにされているような感じですが、ともかく投票に行って、私たちの声を届けましょう。
 ただし、もちろん、今度の衆院選についても、投票日後すぐに、一人一票実現のために全国で一斉提訴する予定です。(浜島将周)


 


<10.1.追記>
 中日新聞の9月30日付の社説「参院定数判決 格差3倍で合格点とは」が、私の思いを代弁してくれているようです。是非ご一読ください。

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