緑オリーブ法律事務所ブログ

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通信傍受法の対象犯罪の大幅拡大・要件緩和、司法取引制度の導入、被疑者取調べの可視化制度の導入などを主な内容とする、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立しました。(時事ドットコムニュース・5月24日

同改正法については、取調べの可視化の法制化をはじめ、被疑者国選弁護制度の勾留全件への拡大、証拠リストの交付等の証拠開示の拡大、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化など、全体として刑事司法改革が一歩前進したとの評価もあります。(2016.5.24.日本弁護士連合会「取調べの可視化の義務付け等を含む『刑事訴訟法等の一部を改正する法律』の成立に当たっての会長声明」
しかし、同改正法は、かえって新たな冤罪を生み出す危険をはらむものであり、積極的に評価すべきではないと考えます。

1.通信傍受法の拡大と要件緩和
同改正法は、これまでの通信傍受法では組織犯罪に限定されていた対象犯罪を、窃盗や詐欺などの一般犯罪にまで大幅に拡大しました。同時に、濫用をチェックすることが期待されていた通信事業者の立会を不要としました。
通信傍受法の対象犯罪の拡大は、冤罪の防止という目的とは無縁ですから、そもそも同改正法に盛り込む必要はなかったはずです。捜査機関の権限拡大強化がされただけ、国民の通信の秘密やプライバシーが侵害される危険がより大きくなってしまいました。

2.司法取引の導入
同改正法は、被疑者が他人の犯罪の捜査等に協力する見返りに、検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりすることができる「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」(司法取引)を導入しました。
司法取引は、虚偽供述による無辜の第三者の引っ張り込みなどが危惧され、もともと冤罪を引き起こす重大な危険を内包しています。法文上、弁護士の関与を必須とするようですが、関与する弁護士は司法取引により有利な結果を得る者の弁護人で、司法取引による証拠により裁かれる者の弁護人ではありませんし、しかも証拠開示もなされていない段階での判断を求められる可能性がありますから、やはり無辜の第三者の引っ張り込みの危険は大きいと考えられます。

3.取調べの可視化の「部分的」導入
同改正法は、取調べの録音・録画制度を導入しましたが、裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件といったごく限定された範囲でしか義務化していません。しかも、捜査機関の大幅な裁量を認める例外規定もあり、捜査機関が自身に都合の良い供述や状況だけを録音・録画し、法廷に証拠として提出する危険を否定できません。
自白に至る全過程が録音・録画されるという「全面的」可視化がされてこそ、その過程を客観的に検証できることから冤罪防止に寄与するのです。同改正法のような「部分的」可視化では、自白のシーンのみが強調される一方で、その自白に至る過程が検証できない事態を容認することになりかねません。

冤罪の防止という刑事司法改革の原点に立ち返るならば、同改正法はそれに逆行しかねないものです。成立したばかりですが、国会は、同改正法の見直しを検討すべきだと考えます。(浜島将周)

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