緑オリーブ法律事務所ブログ

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今年3月のこと、内野席でプロ野球観戦中に、ファウルボールが顔面に当たって失明した観客が、球団等に損害賠償の支払いを求めた裁判で、札幌地裁は被告らの法的責任を認めて損害賠償の支払を命じる判決を出しました。現在は控訴審で争われているようです。この事故では、原告は子どもづれで観戦しており、ボールは2秒程度で原告に当たってしまったとのことです。

今回の判決理由では、球団等が注意喚起するだけでは不十分で、球場に防球ネットがなかったことなどから球場の設備が「通常有すべき安全性」を欠いていたと判断されました。

 

まず、ふだんはあまり意識しませんが、プロ野球の試合観戦のとき、観客は主催者(球団)と試合観戦契約を結んでいて、契約に試合観戦契約約款が適用されています。

たとえば、中日ドラゴンズの公式ウェブサイトによれば、観客の安全かつ平穏な試合観戦確保等のために約款を定めています。

http://dragons.jp/ticket/regulation/clause.html

同約款では、ファール・ボール等による損害が生じても、主催者や球場管理者は原則として責任を負わないとし(13条の1項(1))例外的に責任を負う場合も、損害賠償の範囲を治療費等に限定しています(2項)。さらに、観客に、ファール・ボール等の行方を常に注視して損害を被ることのないようにとの注意義務を負わせています(3項)。

チケット裏面や、観戦中の球場でのアナウンスや大型ビジョンなどでも注意喚起されていますよね。

 

今回の裁判で球団側は、一定の注意喚起等の安全対策をとりながら臨場感を高めるための合理的工夫をしており、観客も一定の危険の引き受けている、という趣旨の主張をしていました。

しかし、本判決は、飲食等をしている観客に、試合中は一瞬も打球から目を離すなとはいえないし、子ども連れの親は自分だけでなく子どもの安全も守らなければならない中で、非常に高度な注意義務を負わせることは難しい、と判断したうえで、設備上の安全性が不十分としました。

たしかに、ファウルボールといっても、観客席の位置によって、ボールが飛んで来るまでの時間や軌道等も違ってくるでしょうから、事故態様には幅があり、ソフト面とハード面の安全対策も異なってくると思います。プロスポーツ観戦が身近で客層が多様であるほど、娯楽性と安全性とのバランスをいかにとるかは、本当に難しい判断だと思います。

本判決は、「プロ野球が,国民的なスポーツとして引き続き発展していくためにも,初めて観戦に訪れる者や幼児や高齢者であっても安全に楽しむことができるだけの安全対策が施されるべき」としていて、観戦に慣れていなかったり年齢的にみて注意力が不十分な方もいるなかで、主催者側や施設側が十分に安全を確保することがプロ野球発展につながる、と考えていることがうかがわれます。

 

アメリカでは、観客の自己責任論が強く、裁判となっても球団側の免責の範囲が広いようですが、日本で今後どうなっていくのかは、観客の意識次第かもしれません。

(横地明美)

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