緑オリーブ法律事務所ブログ

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2013年の1年間に、認知症により行方不明になった人が、1万人を超えた、との報道がありました。

認知症による徘徊といえば、ちょっと前のことですが、徘徊中の老人が線路内に立ち入って列車と衝突したために発生した列車の遅延などの損害について、JR東海が相続人である老人の家族に対して損害賠償を求めた事件の判決が、大きく報道されました。名古屋高裁は、事故当時85歳であった妻に対して、請求額の半額359万円の支払を命じました(原告・被告とも上告。なお、一審の名古屋地裁は、妻と長男に対して、請求額全額を認容。)。

判決は、妻には民法714条に基づく監督義務者の責任があるとして、賠償を認めたものです。
徘徊してしまうほど認知症が進行し、自らの行為に責任を持つことができなくなった老人には、損害賠償責任を負わせることができないので、その人を監督する義務のある人に、本人に代わって損害賠償責任を負わせることになっています。
監督義務者が責任を逃れるのは、監督義務を尽くしたことを自ら立証した場合のみ。結果が発生してしまった以上、監督義務者に何らかの隙があったとされてしまうでしょうから(たとえ24時間体制で監視していても、一瞬でも目を離してしまえば、その間に徘徊されてしまうことはありうる。)、限りなく無過失責任に近いように思います。
このような責任を、家族や法定の監督義務を負担する後見人、あるいは、監督義務者に代わってその義務を果たすことになる高齢者施設の事業主などが負うことになります。

今回の判決は、たしかに、ご家族にとっては受け入れがたいものでしょう。同じようにご自宅で介護されている方からすれば、徘徊傾向にある高齢者は家の中に閉じ込めておけというのか、と違和感をお感じになったでしょう。
私も、認知症の方でも、街に出て散歩したり買い物を楽しんだりする自由はあってしかるべきだと思います。実際、徘徊傾向にある人も含めた高齢者にやさしい街づくりに取り組んでいる自治体もあると聞きます。

しかし、監督義務者の責任が否定されれば、被害者は救済されません。
今回の事件では、監督義務者は高齢の妻、被害者はJR東海という大企業ですから、JR東海は請求せずにことを納めることはできなかったのだろうかと、正直なところ思います。
ただ、被害者が一個人だったり、監督義務者が裕福だったり、監督義務者の落ち度が大きかったりと、ケースによっては、むしろ監督義務者に一定の支払を命じた方が妥当な場合もあるでしょう。

とても難しい問題ですが、例えば鉄道会社は線路への侵入防止策に万全を期する、自治体は地域全体での見守りなどの街づくりをする、政府は負担が家族に集中しないような補償制度を設計するなど、社会全体で負担を分かち合って、高齢者もそのご家族もみなが安心して暮らしていけるようにしなければならないと思います。(浜島将周)

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