緑オリーブ法律事務所ブログ

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 昨年7月の参議院通常選挙に関する「一人一票実現」訴訟(いわゆる「一票の格差」訴訟)について、昨日、最高裁判所の判決が言い渡され、報道各社も大きく取り上げました。(NHK NEWS WEB・11月18日東京新聞Web・11月18日同社説朝日新聞DIGITAL・11月18日など)
 東海三県の原告のみなさんの代理人を務めた濵嶌は、言渡期日に出席してきました。


 先回2016年の参院選に関する最高裁判決が合憲判断で(2017年9月29日「一人一票実現訴訟 最高裁判決(2016年参院選)」)、今回の参院選に関する各地の高裁判決も名古屋高裁判決を含め軒並み合憲判断でしたから(2019年11月8日「一人一票実現訴訟 名古屋高裁判決(2019年参院選)」、予想されたことではありましたが、昨日の最高裁判決は合憲判断でした。


 今回の最高裁判決は、2018年の改正公選法が埼玉選挙区を2増させるにとどまったことで、較差がわずか0.08倍しか縮められなかった点を「立法府の取り組みが大きな進展を見せているとは言えない」と疑問視しました。
 しかし、地方の反対が根強い合区を増やしはしなかったものの、「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区を残した点を「合区解消を強く望む意見もある中、維持した」と一定評価した上で、「わずかではあるが格差を是正した」ことから、違憲の問題が生じるほどの著しい不平等状態にあったとは言えないとして、合憲判断をしました。


 最大3倍に達している較差を2回続けて容認したことで、国会が参議院の一票の格差の合憲・違憲の判断基準を3倍と捉え、その程度の較差の固定化を招きかねないことが懸念されます。
 3倍の較差があるということは、実質的には1/3票、0.33票しか持たない有権者の存在を認めることになります。それが許される理屈はどこにも見いだせません。


 とはいえ、最高裁は、「参議院選挙制度の改革の実現は漸進的にならざるを得ない」ことから、「立法府の検討過程において較差の是正を指向する姿勢が失われるに至ったと断ずることはできない」とも述べています。
 つまり、最高裁は、(参議院についても衆議院と変わらない)一票の格差是正を求めつつ、ただ、参議院は半数改選などの事情があるため、衆議院に比べて選挙制度を改革するのに余計に時間がかかるから、とりあえず合憲と言ってあげた、とも読めます。国会が休むことなくさらに制度改革の努力をすることを前提とした留保付き合憲判決だとみるべきでしょう。
 このように考えると、最高裁自身を含むこれまでの司法の流れをストップさせる、実質的な判例変更だと批判された先回2016年の参院選に関する最高裁判決については、3倍の較差を容認した判例変更ではなく、これまでの一票の格差是正に向かっていた司法の流れは認めつつ、国会にもうちょっと時間的猶予を与えたに過ぎない、という前向きな評価もできます。(…国会に甘すぎる、とは思いますが。)


 なお、今回の「合憲」判断は裁判官15人のうち10人の多数意見です。検察官出身の三浦守裁判官、行政官出身の林景一裁判官、弁護士出身の宮崎裕子裁判官および学者出身の宇賀克也裁判官の4人の裁判官が、一人一票を重視して、「違憲状態」もしくは「違憲」の反対意見を述べてくださいました(もう1人は独自の「条件付き合憲」判断)。
 次回の最高裁裁判官の国民審査の際に、ご参考になさってください。(浜島将周)

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